選手と監督が評価されるのと同様に、アーセナルフロントも評価を下されるべきである
選手や監督ほどには注目を集めないフロント
サッカーファンの常として、我々はいつも選手や監督、チームのパフォーマンスを評価している。試合があれば、個人の、そしてチームのパフォーマンスや、試合中の意思決定や交代策について語り合う。理解できることだ。
だが我々は、それより上の意思決定のプロセスに関してはそこまで時間をかけて分析しようとはしない。もちろん、全く興味がないというわけではないが、基本的には表に出てくる部分が少ないため、選手や監督ほどは注目されないといって差し支えないだろう。
だが、ダビド・ルイスの獲得を巡るニュースが話題になっている今こそ、ラウール・サンジェイが2018年2月にアーセナルに加わって以降の運営手腕を総括する良い機会なのではないだろうか。
新監督の選定を主導
彼は、友人のガジディスによってアーセナルに連れてこられ、アーセン・ベンゲル監督がフットボールディレクターというポジションの導入に否定的だったため、サッカー運営主任という肩書を与えられた。
アーセナル加入はミスリンタートとほぼ同時だが、二月に着任ということで、この一月のオーバメヤンやムヒタリアンの獲得は彼の責任ではなく、ミスリンタートのものだとみるべきだろう。
ベンゲル退任に伴って、ガジディス、ミスリンタート、サンジェイの3人がウナイ・エメリを後任監督にサプライズ選出した。
だが、当時ほとんど英語が喋れなかったエメリがガジディスやミスリンタートに面接で感銘を与えたとは考えづらい。そして、当時その面接室でスペイン語が喋れたのはただ一人だ。
そして、エメリが初めてアーセナルの練習場を訪れた際には、サンジェイと強いコネクションを持つとされる代理人のカナレスを伴って現れた。
エメリの任命は3人合同でのものとされるべきだが、それでもサンジェイの強い影響があったように思われる。
ミスリンタートとの対立
そこからこの3人は力を合わせて業務にあたるはずだった。ミスリンタートが才能を発掘し、サンジェイがその交渉にあたり、ガジディスが二人を統括する。
だが、ベンゲルがクラブを去るのと共にクラブ内のパワーバランスが崩れた上にオーナーも介入しようとはせず、加えてガジディスがACミランへと去ったため、クラブ内に権力の空白が生まれてしまった。
これは人事上の闘争に発展し、ミスリンタートはテクニカルディレクターへの昇格を約束されていたが、これは、ガジディスの退任に伴いサッカー主任に昇格したサンジェイによって取り消された。
報道では、ラウール・サンジェイはコネクションベースの選手獲得アプローチを好んだ一方で、ミスリンタートはスカウティング・データの活用を駆使したよりテクニカルなアプローチを標榜したことから対立したようだ。
彼が窓際に追いやられるのに時間はかからず、2019年の二月にミスリンタートはクラブを去った。のちに彼自身が選手獲得への姿勢の違いが要因となったと述べている。
ミスリンタートはその年の1月の選手獲得には全く関わらせてもらえず、サンジェイとエメリ主導でデニス・スアレスの獲得を決めた。
この獲得にかかったコストは4.5m£と見積もられているが、スアレスは95分しかアーセナルでプレイしなかった。ケガの影響もあったが、怪我以前から活躍できていたとは言い難かった。
そして、アーセナルの2018/19シーズンは悲劇的な終わりを迎えた。CL出場権獲得は確実かに見えたが、チームは崩壊し、ヨーロッパリーグ決勝ではチェルシーに惨敗した。
契約管理の不手際
多くのファンにとって、これがエメリの力量を疑う契機となったが、サンジェイはそれを気にすることはなく、エメリによると彼は契約延長をオファーする一歩手前まで行っていたらしい。
夏にはアーセナルはラムジーをフリーで失い、ウェルベックもフリーで失った。サンジェイ自身が、選手の契約管理は改善されなくてはならず、これからは決して契約の最終年に突入することがあってはならない、と語っていたにもかかわらずだ。
もちろん、ウェルベックとラムジーに関しては前体制から引き継いだものの影響が大きく、擁護の余地はある。(だが、それでも2018年に彼らを売却することは出来たはずで、サンジェイ自身がこれはミスだったと認めている。)
しかし、ではなぜ、2020年の今、またしてもエジル、サカ、ムスタフィ、ソクラティス、オーバメヤンといった選手たちが契約の最終年に突入しそうになっているのだろうか?
そしてこれらに加えて、コシェルニーの問題もあった。
まず明確にしておきたいのは私はコシェルニーの行動を擁護するつもりはないということだ。しかし、9年間クラブの忠実な僕であり、このような行動に出ればアーセナルでの評判の台無しにするということがわかっていながら、キャプテンが移籍をこのような過激な行動に出るということは、彼がおかれた環境がどうしようもなく酷いものだったということが伺える。
もちろん、エメリの責任も忘れてはならないが、この事態はサッカー主任ラウール・サンジェイが見守る中、彼の目と鼻の先で起きた出来事なのである。
コシェルニーによると、彼は何か月もの話し合いの末に最終手段に打って出たのだという。したがって、これがフロント陣にとって虚を突くような行動であったというわけではないだろう。(もちろん、コシェルニーがここまで過激な行動に出るとは予想はしていなかったかもしれないが。)
また、今話題になっているダビド・ルイスの獲得にしても、コシェルニーのせいでアーセナルにはほかにチョイスがなかったという人もいるが、この事態が明るみに出たのは7/11で、一か月時間はあったのだ。
2019夏
この夏の残りの移籍に関しては、上述の通りウェルベックとラムジーはフリーで去り、エルネニーはベジクタシュへ、ムヒタリアンはローマへレンタルされた。チェフは引退し、オスピナはナポリに売却された。そして、モンレアルはなぜかただ同然の値段でレアル・ソシエダへと売却された。
代わりにマルティネッリがやってきて(素晴らしい獲得)、サリバが一年後に加わることとなった。セバージョスをレンタル獲得し、ひと夏まるまる費やしたのちにキーラン・ティアニーの加入も決まった。そして、ルイスとペペの獲得も決まった。
ペペの移籍金は72m£程度と見積もられ、さらに、移籍を仲介したジョルジュ・メンデスに多額の手数料を支払ったと多くのメディアが報じた。
どういう経緯でかはわからないが、この取引に関連して、サンジェイのバルセロナ時代の同僚であり、リールのCEOイングラが、法的かつ経営に関するクラブの状態に関して偽りの情報を提供した咎で、3か月間クラブ経営に関わることを禁じられたそうだ。
それはともかくとして、これがアーセナルの夏のビジネスだった。エメリへの同情の余地はあまりないが、それでもクラブがこの夏に多くのクオリティと経験を備えた選手を失ったのは事実で、エメリが失敗したのは間違いないが、選手獲得と契約管理を担当したクラブの運営側にもその責任はある。
エメリ解任、そしてアルテタの招聘
エメリの業績は悪いからから酷いへと悪化し、シーズンが進むにつれて壊滅的になった。何らかの変革が必要であることは明らかだったが、フロントは静観し、エメリは監督の座に相応しいと解任の数週間まで言い続けていた。
ファンの声は雑音と表現され、その間にもアーセナルの順位は落ちていった。最終的にエメリは去ることになったが、これがあまりに遅すぎたことは間違いない。
その後クラブは暫定監督としてフレディ・ユングベリを任命したが、彼を助けるために与えられたのはアカデミー主任のメルテザッカーとGKコーチの二人しかいなかった。
もちろん、アルテタを最終的に招聘したのは大きなポジティブではある。フロントの批判すべきところは批判し、賞賛すべきところは賞賛しなくてはならない。
一方で11月に、サー・チップス・ケジックが元アーセナル選手のデヴィッド・オレアリーのフロント入りを提案したが、これは拒絶され、クロエンケが100%の株式を保有している以上、かつてのアーセナルボードの面々は何の力もないことが明らかとなった。ケジックとサンジェイの関係は悪化し、そして先週サー・チップスは退職を表明した。
冬の移籍市場
アルテタ監督就任後の初めての移籍市場である1月には多くの選手のアーセナル移籍が噂されたが、その多くがスーパーエージェントのキア・ジューラブシャンの顧客だった。
彼は今やスタジアムのディレクターボックスから試合を観戦するような立場になっている。エドゥとも関係が深く、ダビド・ルイスの獲得は彼の影響が大きかったようだ。
同じく彼が抱えるレビン・クルザワ獲得も噂されていたし、サウサンプトンからソアレスをサプライズ獲得した際の契約書をサインするときの写真にはジューラブシャンが映っていた。
ウィリアンのアーセナル移籍も噂されているが、彼らの代理人が誰であるかはわざわざここに書くまでもないだろう。
アーセナルは冬にフラメンゴからパブロ・マリの獲得も行った。確かに彼のブラジルでの活躍は印象的だが、26歳でブラジルでプレイする選手の獲得というのは若干の残り物感が否めない。もちろん彼が単に遅咲きの素晴らしい選手で、アーセナルでよいプレイを見せることを願ってはいるが。
彼の代理人は誰かというと、上述のカナレスだ。
まとめ
私はアルテタの元アーセナルが正しい方向に進んでいってくれることを期待している。彼は、選手やクラブをまとめることが出来る人物に見える。
ここまでですでに将来への希望は見えているし、楽観的になれる要素もいくつかある。もしこの人事が成功を収めれば、フロント陣の人選は評価されるべきだ。
だが一方で、現在のサッカー主任のサンジェイの元、アーセナルがどのように運営されてきたかについて、我々がもう少し注意を払わないといけないのは事実だと思う。
注: 恐らくサンジェイ体制下で起こった良い点も悪い点も、いくつか忘れていることがあるかもしれない。だが、私は出来る限り彼のもとで起こった出来事をまとめてみたつもりだ。
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コメント一覧
今シーズンクライシスに陥ったのは信頼関係が原因で、それは調子良い時は気付かずダメな時に露呈します
厳しい局面で自然に才能を発揮して逆境を跳ね返すのに、クラブが疑わしくては誰もクラブのために自然に頑張れません
そもそもプレミアで簡単に勝てる相手はいません
フレディが最初の試合で、干されてたエジルジャカムスタフィ先発させたのも信頼を示すためでしょう
アルテタも取り戻すために努力すると語りました
サンジェイが就任後まず発したとされるコメントが、オスピナ確実に移籍、ツェフ疑問視、オブラク興味、シーズン中に内部の人間が発するコメントではないです
カジディスがいなくなった瞬間ラムジーの契約取り下げ、妥協点見つける努力すらしない
エジルの扱い、コシェルニーの一件、ジャカへの対応
これらは代わりはいくらでも自分の腕力で連れてこれるという考えです
もちろん合理的な判断は大事ですが、今の構図はこのクラブとは合ってないと思います