アーセナルの2018/19財務分析総括 by SwissRamble
2月末にアーセナルの2018/19の決算が発表されました。今回は、これに関する財務のエキスパート、SwissRamble氏のツイートを総括してまとめてみました。特に表記がない場合は通貨の単位は£です。
全体のまとめ
アーセナルは2002年以来初となる赤字を計上、17/18の70Mの黒字から大幅な業績悪化となった。
収益に関してはマッチデー収入(主にチケット代)は微減、商業収入と放映権料の微増で補った。
支出に関しては、給与は8Mの増加、一方で2017/18はベンゲル監督退任に伴う12Mの特別支出を計上していたが、これは一時的なものなので、昨年分は4Mに減少。
全体的に見て32Mの赤字というのは良くない数字だが、最悪というわけではなく、チェルシーやエヴァートンは100M以上の赤字を計上している。
今回の赤字は選手売却が上手くいかなかったことが大きい。17/18シーズンは支出が膨らむ中、マッチデー収入とスポンサー収入は横ばいだったが、選手売却で利益を出すことで補填していた。
だが、実はこれは例外的な年だったといってよく、2018年以外はアーセナルは選手売却で利益を上げることはほとんどない。
この5年で選手売却から得た利益170M、このうちの70%が2017/18にもたらされたもので、チェルシーとリバプールに大きく劣っている。 しかし今季はイウォビやビエリク、コシェルニーの売却があるため改善されるだろう。
過去のアーセナル、また他クラブと比べて
EBITDA(Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortisation=利息、税、減価償却を除いた利益、一般企業でいう所の営業利益のようなもの。)は変化なし。ここ四年では最低水準。2年前は140M程度あったので、半分近くに落ち込んでいる。
ビッグ6内では5位で、ユナイテッドの半分以下の数字となっている。6位は選手の売買で利益を主に上げているチェルシー。
全体の収益は2年前の水準より低下している。放映権などすべての面において収益は減少。すべてにおいて、CLの影響が大きいと思われる。
これは、他のビッグ6のクラブと比べると由々しき問題で、過去二年間で売り上げが減少したのはビッグ6ではアーセナルのみ。
売り上げではトッテナムとは3年前には141Mも差がついていたのに、今は65Mも先を行かれている。たったの3年で200M以上をまくられた計算(1年平均で100億円弱程度)になる。
これに伴って、395Mという売り上げはリーグ6位。ただ、7位のウエストハムまではまだ191Mの開きがある。
国内を離れ、世界的に見てもデロイト発表の売上ランキングでは世界11位に後退。これは、2001年以来の最低順位。
また、18/19年でバルサが129M、PSGが81M増収となっており、成長市場でアーセナルのみ停滞していることが見て取れる。増加が4Mのみというのは非常に少ない。
デロイト発表のクラブ売り上げランキングで2011年には5位だったが8年で11位に。10位に95M差をつけていたが今は4M先を行かれている。一概には言えないが、他のクラブと比べて成長が100M近く鈍い、ということになる。
収入の内訳
放映権料は大きく変化はない。だが、今季はベスト32で敗退してしまったので15Mほど少なくなるだろう。
2019年にEL決勝まで行ったにもかかわらず、チャンピオンズリーグ出場クラブと比べると放映権料34M以上の差を付けられている。CLの影響は非常に大きい。
平均で見ればまだ5年で231M€をヨーロッパ大会でアーセナルは得ており、トッテナムやリバプールとそこまで大きな差はないが、この2年で大幅に減少している。
マッチデー収入も微減(3M)。とはいえ、いまだにユナイテッドに次いで、リーグ2位の水準。
観客動員数もユナイテッドに次いで国内2位。マッチデー収入に関して言えば、今季はELでの敗退が早かったため、カップ戦を7度ホームで開催できず、シーズンチケットホルダーに払い戻しの義務がある。
全体の収益の1/4がマッチデー収入であり、アーセナルのマッチデー収入への依存度は明らか。これは、ヨーロッパトップクラスの割合である(商業収入が低すぎるともとれる)
袖スポンサーのおかげで商業収入は4M上昇したが、まだリバプールやチェルシーに大きく劣っており、トッテナムにも追い抜かれた。
他のビッグ6の商業収入がここ4年で50M以上増加しているにもかかわらず、アーセナルは横ばい。(8Mしか増えていない)
だが、19/20からは新スポンサー契約(エミレーツ航空+アディダスとの新ユニフォームスポンサーシップ)があるので40M程度の増収が見込める。
支出に関して+まとめ
アーセナルの人件費は9M(4%)増加。2年前と比べると、収益は28M減少しているにもかかわらず、給与支払い額は32M増加している。
ただ、この増加幅は比較的小さいほうで、他クラブはもっと給与支払額は増えている(収益も増えているので当然といえば当然だが)。シティ、ユナイテッド、リバプールは100M以上増加しており、チェルシーが63M増加。
増加額ではなく、絶対額でみても、他のトップ6のクラブと比べると、ユナイテッド(332)、シティ(315)、リバプール(310)、チェルシー(286)に対して、アーセナルはと比べると比較的安い
選手の移籍金の償却費(?毎年計上される、移籍金の支出分に相当)は4M(5%)増加し、年額90M、5年で倍以上になっている。
これはリーグ5位の数字で、18/19の財務諸表がまだ発表されていないため確定ではないが、リバプールにも抜かされリーグ6位になる可能性も。
アーセナルが抱える負債は217Mから209Mに減少。しかし、一方でキャッシュは231Mから167Mに減少しているため、実質42Mの赤字。
負債の多くは2029年までの返済となっている。この負債の額はリーグ5位で、支払った利息の額は11Mとなっており、リーグ3位の額。
とはいえ、キャッシュ167Mというのはまだユナイテッドに次ぐリーグ2位の多さのためそこまで不安はなないと言えるかもしれない。
SwissRamble氏の見立てでは、19/20シーズンは選手売却と新しいスポンサー契約のおかげで黒字に復帰するだろう、とのこと。
(もしより正確な情報が知りたい方は、SwissRambleさんのアカウントをフォローすることをお勧めします。)
ディスカッション
コメント一覧
世界恐慌必至の状況で、これがどんな意味を持つのか。確かにサッカーがそれを防ぐ可能性はある。ただしコロナウイルス問題が沈静化した後。日本もそうだが、経済優先で、かえって破滅を誘導している。
翻訳お疲れ様です
何年も商業収入が増えない理由が知りたいですね
単純にカジディスが無能だっただけで、ヴェンカテシャンなら増やしてくれるのでしょうか