ユース指導のスペシャリスト マルセル・ルカッセン インタビュー 前編
先日の記事でアーセナルの選手育成担当責任者、らいかーるとさんをもってして"怪物"と言わしめた、マルセル・ルカッセン氏に興味を持ったので、今回はオランダ語のインタビューをGoogle翻訳経由で訳してまとめてみました!
原文は非常に長いものになっているので、要約しつつとなっています。彼の基本的な経歴などについては前回の記事をどうぞ!
『多くのコーチが自分の仕事を全くわかっていない』
フェンロのユースコーチとしての経験を経て、あなたはホッフェンハイム、ドイツ代表、アルナスルそして今ではアーセナルの育成担当主任です。トップレベルでのサッカーのプレイ経験がない人物が、いったいどうやってこのようなキャリアを送ることが可能だったのでしょうか?
なぜトップレベルでのプレイ経験が必要なんだい?
トップレベルだからと言ってスポーツの種類が変わるわけじゃない。子供たちのサッカーも、草サッカーも、プロのサッカーも、全部やっていることは同じさ。違いは単にアクションを起こすスピードの違いだけだ。
私は仕事を選ぶ際に、家族、ビジョン、そして一緒に働くことになる人々を常に考慮しているようにしている。これらすべての条件がそろって初めて私は具体的にオファーについて考えるようにしているんだ。
2017年の11月に電話がかかってきてね。アーセナルでの"コーチング・選手育成主任"というポジションに興味はないか、という内容だった。
当時私はアルナスルのテクニカルディレクターを3年務めていて、契約延長のオファーを受けていた。彼らは熱心に私を引き留めようとしていたよ。ホッフェンハイム時代と同じようにね。
だから、私は迷っていた。とりあえず、私はアーセナルに、興味はあるが、具体的にどのような仕事なのか、そして誰と働くことになるのかがわからないと答えは出せない、と告げた。
すると、アーセナルは私に『ペア・メルテザッカーがアカデミー主任に就任する予定だ』と教えてくれた。
ですが、その時点で彼はまだ現役の選手でしたよね?
その通り。だからこそ、彼らはメルテザッカーの周りに経験豊富な人材を配置したかったのだろう。
私の広い範囲での経験のおかげでアーセナルは私に興味を持ったようだった。私は脳科学の知識もあるし、フィジカルトレーニングやコンディショニングに精通していて、クラブにコーチングのビジョンやサッカー哲学を根付かせることが出来ると証明していたからね。
もちろん、こういった分野からサッカーの道に進むのは少しレアではあるが。
私はよく刺激的なキャッチフレーズとして『サッカーは集団で練習を行う個人競技である』という言葉をよく用いる。
これに関しては、まだサッカー界でも良く認識されていない。集団で練習を行うため見逃されがちだが、実は個人レベルでのコーチングも非常に重要なんだ。ただ個人レベルで丁寧に戦術やサッカーIQに関しての指導はまだ一般的ではないね。
とにかく、私はまず人間的にメルテザッカーと相性が合うのかどうか、みてみることにした。
アーセナルの人材採用プロセス
メルテザッカーと夕飯を共にしたのち、あなたはそれらのビジョンをアーセナルに植え付けたいと決めました。その後のプロセスについて教えてください。
今の時代には、人材の発掘や獲得を専門とする会社が重用されている。アーセナルにとってそれはノーラン・パートナーズだった。
のちに私は彼らになぜそのような会社の手を借りるのか、と尋ねてみたんだ。クラブは自分たちのネットワークに頼るだけではなく、もしかするとアルゼンチンやルーマニアに最高の人材が眠っている可能性なども考慮したいからだ、と言っていたよ。
ノーラン・パートナーズはそのような人材を探し出すことにも長けている。アーセナルはまず90人の候補者から20人に絞り、最終的に8人にまで絞り込んだそうだ。
そこから面接が行われたのですか?
一番最初の面接はアーセナルではなくノーランの社員とのスカイプ面接だったね。そのあと、アーセナルのディレクター陣+メルテザッカー、そしてノーランの社員というメンバーにプレゼンテーションを行うためにロンドンに呼ばれた。
面白かったのは、夜に結果を連絡すると言っていたのに、私がプレゼンテーションを終えたら廊下ですぐにアーセナルの上層部が話しかけてきたことだね。私で決まりと思ったようだ。
その人物は私のプレゼンを聞いていたわけではなかったから、なぜ私で決まりだとわかるんだい?と聞いてみたんだが『君は彼らと3時間も話していたからね!他の候補者は長くても1時間半だったよ』と言っていたよ。
その3時間の間に何を話したんですか?
サッカーについてさ。どうやって組織を作るか、どうやって選手を成長させ、そのために細部を構築するかだ。
サッカー哲学と指導のメソッドに関する話と言えるかもしれない。サッカーというのはシンプルで、攻撃、守備、そして攻守の切り替え、守攻の切り替えの4つから構成されている。
そして攻撃は、攻撃の開始、チャンスの創出、そして攻撃の終了に分解することができる。一方で、守備をどの段階で始めるかはチームしだいだ。前線や中盤のプレスから始めることもできるし、低いブロックで守ることもできる。我々は各場面に適用できる細かな方針を作成している。
例えば、中央を閉じてサイドで数的有利を作り出すにしても、いろいろなフォーメーションで、そしていろいろな高さ(ピッチ上の位置)で行うことができる。
この戦術を個人レベルに落とし込むのがトレーニングだ。アクションというのはコミュニケーション、意思決定、そして意思決定の遂行からなる。そして、ハイレベルな舞台でこのアクションが成功するかは、条件と、そのアクションのスピードしだいだ。
その中で、コーチやトレーナーが果たす役割というのは何になるのでしょうか
サッカーというのは選手たちによるスポーツだ。彼らがピッチ上で決定を下し、行動に移す。トレーニングでは、いかにコーチが、選手たちに詳細な判断材料を与えてよい決断を下すための手助けを出来るかが重要になる。
アクションを体勢、ポジションや時間、方向、そしてスピードなどに基づいて分類するのだ。アクションが失敗した際にこのうちのどの要素が悪かったのかがわかるようにしなければならない。
体の体勢は?アクションを実行するタイミングを正しく選んだか?あるいは正しい方向に正しいスピードで行えていたか? などのようにね。
生死にかかわる状況では、明確で平易な言葉で話すのが重要になる。例えば病院やコックピットでは、彼らが自身の責任を外部の要因になすりつけるような真似は許されない。だが、サッカー界ではこのようなことが起こり続けている。
こういった考え方が、アーセナルから高く評価されたようですね?
二週間後に私は再び招かれて、3度長時間にわたる会話をした。選考のこの段階まで残っていた他の候補者と同じようにね。最終的には、この後ノーラン・パートナーズとアーセナルは私を雇うことで意見が一致したらしい。したがって、私がこの仕事に就くまでのプロセスはなかなか長いものだったね。
アーセナルユースアカデミーの惨状
アーセナルのようなビッグクラブであなたの理論を実践するにあたって、何から始めたのですか?
2018の8/1から私の仕事は始まったのだが、まず最初の1か月間はスタッフと話すことに費やした。彼らを観察して、分析したんだ。
結論はどうでしたか?
私の一か月後にペア・メルテザッカーがアカデミー長に就任したのだが、我々のアカデミー状態はどうだい、と尋ねた。アーセナルのフロントはゼロからアカデミーを作ると言っていたが、実際はマイナス2から始める必要がある、と私はメルテザッカーに告げたよ。
なぜマイナス2なのですか?
シンプルさ。最初の一か月間に私は20人ほどに『アーセナルウェイ』とは何だい?と聞いて回ったが、誰も答えられなかった。衝撃だったね。
3人ほどがパスサッカーと答えたが、それに私は、世界中にパスサッカーをプレイするチームはたくさんある。アーセナルと他のチームを隔てるものはほかに何かないのかい?と尋ねた。誰も明確に答えられなかったね。
トレーニングプランはたくさんあったが、それはどれもサッカーのプレイ方針や哲学に基づいてはいなかった。
問題はそれだけでしたか?
また、単純にクオリティが足りていない年代があるのも気になった。最も若い世代のユースチームでは、シンプルにチャンピオンズリーグレベルの選手になれる素質のある選手が少なすぎた。私のドイツ代表時代の経験と照らし合わせれば、比較対象はたくさんあるからね、それは明らかだったよ。
(明日の後編に続きます、いよいよルカッセンさんがいかにアーセナルを変えたのかに関する話です)
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コメント一覧
いつも ブログ拝見しております
とても興味深く 後半が楽しみです
とても興味深い、ほかでは読めない記事でした。ありがとうございます!!