【アーセナル新加入】スカウトレポート: エベレチ・エゼ
サッカーというのはしばしば美しいスポーツだと形容されるが、一方では非常に無慈悲なものでもある。将来のプロサッカー選手を目指す約150万人の子供たちのほとんどは16歳までにはアカデミーを放出となる。
16歳までアカデミーに残れたとしても、そのうちの70%にはプロ契約はオファーされない。そしてそこから実際にプレミアリーグで1分でもプレイできる選手は約180人、0.012%程度しかいないのだ。
人生を賭けた夢が一瞬のうちに悪夢へと変わってしまう。
そのことはエベレチ・エゼが誰よりもよく知っているはずだ。
彼は13歳で、愛するクラブであるアーセナルのアカデミーでこれ以上プレイを続けることは出来ないという宣告を受け、目に涙を浮かべた。
更に、その後3年間も彼はフラム、レディング、そしてミルウォールのアカデミーから放出となる、というのを繰り返した。その後ブリストル・シティとサンダーランドのトライアルも不合格になった。
だがその14年後の今、彼は再びすべてが始まった地に、10番を着けて舞い戻ることとなった。
Ebere Eze’s box-office unveiling to @Arsenal fans 😎 pic.twitter.com/yo1uoI5BLY
— Premier League (@premierleague) August 23, 2025
カイ・ハヴァーツの怪我が決断をプッシュしたのは間違いないが、そもそもではなぜアーセナルとアルテタは彼に白羽の矢を立てたのだろうか?
エゼの特徴①シュートの多さ
彼は昨季アーセナルが抱えていた攻撃の課題を解決してくれる選手だ。どこまで意図的なものなのかは定かでないが、昨季アーセナルは全ての条件が完璧に整わないとシュートを打たず、得点が出来ないチームのように見えた。
シュートを打つ選手の利き足、コントロール、ブロックのDFの有無、時間の余裕。
アーセナルがヨケレス(昨季の90分当たりのシュート数は4.1本だった)、マドゥエケ(3.6本)に加えてエゼ(3.5本)を補強したというのは明確な意図が感じられる。
彼らは皆、少しでもチャンスがあれば迷うことなくシュートを放つ選手だ。彼ら3人だけで356本のシュートを記録しており、3人ともが昨季のアーセナルのどの選手よりも90分当たりのシュート数が多かった。
だが、エゼを魅力的な選手にしているのは単なるシュート数の多さだけではない。これらのシュートが放たれる位置も興味深い。
アーセナルの攻撃は中央、特にペナルティエリアのすぐ外側の位置で停滞する傾向があった。部分的にはアーセナル最高の選手がサイドにいるという理由もあるが、アーセナルはどちらかというとサイドから脅威となることが多かった。
中央で6人のDFに固められたエリアを攻略しようとするよりも、相手のサイドバック相手に数的優位を作ることの方が簡単だからだ。
エゼは左側でプレイすることがメインだったにもかかわらず、彼のシュートのほとんどがペナルティエリアの横幅よりも内側の位置から放たれたもので、かつその半分以上がボックス外からのものだ。
これらの中には観客席に飛び込んでいくようなシュートもあり、効率性とチャンスの質という意味では少々フラストレーションがたまる場面もあったかもしれないが、これは彼が自分のポジションを離れることを厭わず、かつ他の選手にチャンスを作ってもらわずとも自らチャンスを作り出しシュートが打てる選手だということを示している。

中央でより多くシュートを放てる選手というのは単に得点数を増やすというだけでなく、このエリアでサカ以外の選手に相手が注意しなくてはならなくなるという点で見てもチームにとって必要だ。
エゼの特徴②ドリブル
シュートを打てる選手というのは素晴らしいが、何よりもエゼを輝かせるのは彼のボール運びだ。彼はやすやすと相手のプレスをかわし、タックルを回避しながらドリブルをする。
何の苦も無くリズムを変化させ、彼はどのタイミングで相手のスピードを落とし、どのタイミングで加速して引き離せばよいかを完璧に把握している。隣にエゼがいると思っているとすぐに10ヤードは引き離している。
クリスタル・パレス加入後の5年間で彼はクドゥスと並んで最もドリブル突破が多い選手(212)だ。ボールをキャリーしてからのシュート、という連続したアクション数でもリーグ14位に立っている。彼を上回った13人のうちビッグ6の選手出なかったのはワトキンス、ボーウェン、バーンズ、ザハの4人のみで、アーセナルの選手はサカだけだ。
昨季を見ても、彼は90分当たりのドリブル突破数がリーグ3位で、ドクとクドゥスに次ぐ成績だった。
彼とマドゥエケはアーセナルにダイレクトさと積極性をもたらしてくれるに違いない。
マドゥエケがよりカオスを味方につける選手だとすれば、エゼはスムーズなジャズ奏者のような選手だ。雰囲気は大きく異なるが、彼らは相手の予想を裏切るという点が共通している。
最近のアーセナル、そしてアルテタに対する批判の一つが、チームが少しリスクを恐れすぎているというものだ。チームに少しルールを外れてでも華麗なプレイを見せるような選手がいない。
特に低く引いたチームを相手にするときにそれが顕著だった。昨季のスカッドでそれが出来る選手として思い浮かぶのはリカルド・カラフィオーリくらいのものだ。
サカのプレイは常に非常に正確で、ライスがボックスに飛び込み、ヨケレスとマドゥエケがマルティネッリと並んで、パワフルでアグレッシブなランナーになるだろう。
エゼもフィジカルには秀でているが、彼は独特なエレガントさと意外性がある。彼はパレスでファンの歓声を呼び起こす選手だった。彼は数字に残る貢献と華やかさを結び付けられる選手で、それは今のアーセナルには多くない。
エゼのポジションと守備面
そして、だからこそ、彼がどのポジションでプレイするのかに関してはそこまで心配しなくて良いだろう。彼が出場機会を得るのは間違いない。なぜなら彼は素晴らしい選手だからだ。
彼はチームにないものをもたらしてくれるし、楽しい選手だ。サッカーは楽しくあるべきものだ。
アーセナルの素晴らしい守備陣は、中盤から前線まで全てが型にはまっていなくても十分に対処できるはずだ。
もちろんアルテタのチームでプレイする以上、ポジションに関わらず守備意識は必要にはなるだろう。彼の子の素質を判断するのは少し難しい。
彼はクリスタル・パレスで実質的にフリーな役割を与えられ、より攻撃に集中する仕事を与えられていたからだ。
彼は相手のスキを突いてボールを奪うのは苦手ではないし、グラスナーは素晴らしい戦術眼を備えた監督で、エゼはそれに合わせてウイングバックが孤立しないようなポジションをとることが出来ていた。
ただ、何よりも目を引いたのは彼がいかにプレスの起点となり、守備時にもチームを素早く前進させるかだった。その能力は彼のボールを前進させる能力と同じくらい目立っていた。
Opta Analystのデータでは、ミドルサードとファイナルサードで1200回以上プレスをかけた選手のうちで、エゼはインテンシティの高いプレス数でリーグ6位を記録している。エミレーツスタジアムでの高い位置でのボール奪取も増えることだろう。
まとめ
現代では、アーセナルファンの意見が一つにまとまることはほとんどない。だが、それが起きた。これは歴史書に刻んでおく必要があるだろう。
エゼは単にリーグで最もエキサイティングで、これからキャリアのピークを迎えるプレミアで活躍する準備が整った選手であるというだけではない。彼は素晴らしい人間性を持ち、そこにはストーリーがある。彼のキャリア、彼のアーセナルとの絆、そして心からアーセナル加入を望んでいた、アーセナルファンでもある選手がユースチームからの放出を経て再びアーセナルに帰ってくるという経緯はとても美しい。
今のサッカー界では情報が氾濫し、興奮は薄れ、興味はすぐに次の話題に移る。
だが、我々はこの移籍のロマンティックな側面を良く味わうべきだ。
エゼはかつてティエリ・アンリにあこがれた少年だったのだから。エゼはあと一歩のところでタイトルに届かなかったベンゲルのチームを見ながら育った選手なのだから。エゼはイアン・ライト共に子供時代のユニフォームのコレクションを振り返って涙を浮かべた選手なのだから。
また、彼は92m£でトマス・レマル獲得オファーをアーセナルが出したことに疑問を呈し、ダビド・ルイス、ソクラティス、ムスタフィという守備陣でもアーセナルはリーグ優勝できる、と宣言したアーセナルファンでもある。たまたま非常にサッカーが上手かっただけだ。
そこまで明確な手掛かりがなくとも行先に向かうのは出来る。重要なのは帰り路だ。そして、エゼは帰ってきた。彼と共に、アーセナルも帰るべき場所に帰還できることを願おう。
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