【アーセナル新加入】スカウトレポート: ヴィクトル・ギェケレシュ
選手に関する様々なデータにアクセス可能な現代のサッカー界だが、この夏の移籍市場でアーセナルの新ストライカー獲得は少し難しい状況にあたった。
移籍市場が開幕してもまだ、明確な最優先ターゲットと呼べるほどのは存在せず、そもそも獲得可能で即戦力となりうるストライカーはかなり限られていた。
理想的な補強はアレクサンダー・イサクだったが、ニューカッスルから引き抜くには費用がかかり、現実的ではなかった(ただし報道を見る限り今後状況は変わる可能性があるようだ)
シェシュコは将来性抜群だが、まだ成長途上で、1月の獲得失敗によって、オリー・ワトキンスの獲得も難しくなった。
そんな中浮上したのがヴィクトル・ギェケレシュだった。
以前からアーセナルが興味を持っていると報じられてはいたが、獲得に動くほどの本格的な関心とまでは感じられなかった。しかしThe Athleticが3月にアンドレア・ベルタがギェケレシュを高く評価しているという記事を掲載したとき、これには何かしらの意味があるように見えた。
ベルタはこの時アーセナルのスポーツディレクターに就任したばかりであり、この情報が意図的に流されたものであることは明らかだった。そして4か月後の今、ギェケレシュが赤と白のユニフォームに袖を通している。
Gyökeres. The Arsenal. It’s official. pic.twitter.com/H11yMVU3gf
— Arsenal (@Arsenal) July 26, 2025
執念でトップリーグに再び返り咲いたギェケレシュ
スポルティングで102試合97得点という驚異的な数字を記録しているにもかかわらず、今回の獲得がギャンブルと見なされていること自体が不思議な話ではある。
だがこれは、かつてトップレベルでの花開くことはもう不可能であるかにも見えた選手が努力と忍耐によって頂点にたどり着いた物語でだ。
では、アーセナルがギェケレシュ獲得に踏み切った理由は何なのだろうか。
ギェケレシュはスウェーデン2部からブライトンに引き抜かれた後、ドイツやチャンピオンシップでのローン生活ではなかなか安定した活躍を見せられなかった。しかしコヴェントリーと監督マーク・ロビンスのもとで、彼のメンタリティは変化した。体を鍛え直し、圧倒的なフィジカルと得点力でチームののエースへと成長し、その後争奪戦を制したスポルティングがプレミアリーグのクラブを押しのけて獲得することとなった。
ロビンス曰く、ギョケレシュもポルトガル行きを望んでおり、「決して気持ちが揺らぐことはなかった」という。ヨーロッパで自身を証明し、またストライカーがステップアップしやすいリーグでさらなる成長を目指していた。
ギェケレシュのゴールに向かう姿勢
得点力だけでなく、彼のプレーには容赦ない執念のようなものがある。ゴールへ向かう姿勢は、まるで個人的な復讐を果たすかのようで、試合を通じて走り続け、シュートを撃ち続け、相手DFとぶつかり続ける。
この一心不乱さこそが彼のキャリアを好転させた、そして現在のアーセナルに決定的に欠けている要素である。
彼のシュートもまた、その精神性を体現している。ときには繊細なチップシュートやコントロールされたシュートも見せるが、基本的にはとにかく力強く蹴り込むスタイルだ。ゴール前での迷いのなさが魅力であり、それが彼をトランジション型のサッカーに最適な存在としている。
プレミアリーグはますますインテンシティを増しており、また、アーセナルが戦う大半のチームは自陣で低く構えることにも長けているが、それでも一瞬の隙が生まれるだろう。
その刹那を逃さず突く能力こそが問われる中、ギョケレシュは常に前線で動き続け、左サイドに流れつつDFラインの裏を狙って加速し続けるだろう。
素晴らしい加速力とチャンス創出力
SkillCornerのデータによれば、彼は昨季、DFラインの裏へのスプリント(時速25km以上のラン)を85回記録しており、これは同リーグの他のストライカーの2倍以上にあたる。2位はポルトのサム・アゲホワの41回、プレミア最多だったニコラス・ジャクソンよりも24回多い数字である。
Scouted Footballの分析でも、1試合あたり約20回のスプリント反復は他を引き離しており、最高速度への到達の速さでも欧州5大リーグで5位以内に入っている。
コヴェントリーやスポルティングでは、彼はハーフウェイライン付近で孤立しつつ、相手と肉弾戦を繰り広げ、ルーズボールを奪い、チームを前進させる役割も果たしていた。昨季ギェケレシュははドリブル突破後に25本のシュートを放っており、これは欧州5大リーグの中ではラミン・ヤマル、ヴィニシウス、ジェイミー・ギテンス(いずれもWGの選手たちだ)に次ぐ4位の記録だ。
彼は孤立してボールを受けることを恐れず、自らチャンスも創出できる選手だ。
昨季、90分あたりのペナルティエリア内キャリー数では、モハメド・サラー、ヴィニシウス、ジェレミー・ドクに次ぐ4位(3.11回)を記録しており、彼が生むスペースと混乱は味方にも恩恵をもたらす。アーセナルは昨季、敵陣での高い位置でのボール奪取からシュートや得点に繋げる確率がトップクラブの中では最低レベルだったため、そうした場面での決定力を、彼が補ってくれる可能性は高い。
プレミアリーグクラブを相手に得点を量産できるか?
当然ながら、ギェケレシュの獲得には懸念材料もある。
そのもっとも大きな点が、ギェケレシュが「何点決めたか」ではなく「誰を相手に決めたか」だ。ポルトガルリーグは上位と下位の実力差が大きく、Optaによれば、世界30のリーグを比較した中で2番目に格差の大きいリーグとされている。
そのため、スポルティングは格下のチーム相手に大量得点を挙げることも多く、ギョケレシュもその恩恵を受けている。昨季の39得点のうち、実に37得点が5位以下のクラブ相手であり、うち13点は最下位4クラブから奪ったものだった。
ギェケレシュは昨季リーグトップ4相手からの得点はわずか2点(どちらもブラガ戦)であり、ベンフィカやポルトからは無得点だった。
ただし、より長期的な機関で見れば相手を問わずスタッツには大きな偏りはなく、スポルティングでの2シーズンでビッグ3相手に10ゴール5アシスト、またCLでも9試合で5ゴール2アシストを記録している。
Optaが6月に公開した世界フットボールパワーランキングでは、ポルトガル1部はチームのレベル的にはイングランド2部やベルギーリーグよりも格下とされ、18クラブ中11クラブがイングランド3部相当のレベルとされた。
したがって、ギェケレシュはプレミアではフィジカル、スピード、そしてチームとしての組織力においてこれまでとは段違いのチームを相手にすることになるだろう。
彼のフィジカル、決定力、裏に抜けるランは素晴らしいが、アーセナル移籍はギョケレシュにとっては間違いなくステップアップでだ。ポルトガル、あるいはオランダから得点王が来ると、必ずさらに上のレベルでも通用するのか?という問いがつきまとう。ファルカオのようなケースもあれば、ジャクソン・マルティネスやスリマニ、ジャルデルもいる。
ただし、プレミアリーグで下位中位の相手に得点を奪うことをギェケレシュが得意としてくれるのであれば、アーセナルにとっては悪い話ではない。彼ら相手にエルゴールも勝ち点も1は1であり、最近のアーセナルはそうした相手に苦戦してきたからだ。
低いブロックを崩す手段が現チームに乏しい中で、攻撃に新たなバリエーションを加えるストライカーが必要だった。そして、ベンチから試合の流れを変えてくれるような選手の存在も長年欠けていた。
ギェケレシュの課題
ギェケレシュには技術的な課題もいくつかある。ポストプレーはやや粗く、受け手としての技術的な安定性には欠ける。ボールがバウンドしやすく、足下に収まらない場面もある。だが、アーセナルには中盤に降りて受けられる選手もおり、そこまで致命的な問題とはならないだろう。
一部ではギェケレシュのシュートモーションの遅さも懸念として指摘されているが、個人的にはそこまで目立った違和感はない。ただしプレミアでは非常に早い判断が求められ、1タッチすら許されない場面も多い。
確かに狭いエリアではギェケレシュはやや動きが重くなるが、彼の役割はあくまで最終ラインを押し広げ、裏を狙い、相手DFを疲弊させることであり、他に代えが利かない仕事である。
昨季、アーセナルは攻撃が単調かつ遅く、リヴァプールと最後まで戦い抜けなかった要因の一つとなった。ギョケレシュは、この課題に対して良い解決策を提供してくれるだろう、彼は常に全力、全身全霊でゴールを決めるという一点に集中している。
まとめ
今夏、私個人としてはシェシュコ獲得の方が良いのではないかと考えていた。彼はカイ・ハヴァーツによりスタイルが近く、将来性も感じさせたからだ。
しかし、ギョケレシュ獲得と比較して、そこまで大きな差があるとも思えない。むしろ、異なるスタイルの選手を加えることが、今のアーセナルには必要だった可能性もある
彼のメンタリティ-アーセナルに来たいという強い意志、自分自身への自信、成功への飽くなき渇望-は、過小評価されるべきではない。
彼が開幕戦のオールド・トラフォードでファンが最も注目する存在であるのは間違いない。すでに彼のゴールパフォーマンスを真似るファンも現れ、マイルズ・ルイス=スケリーも興奮を隠せなかった。そのような存在感やオーラがチーム与える影響は無視できない。
細かいテクニックの話やゴール前での動き方は、後で考えればいい。
スポルティングは交渉で強気の姿勢を見せたが、最終的にアーセナルとミケル・アルテタはギェケレシュを獲得することに成功した。
彼こそがクラブが選択したすぐにチームに組み込める、お買い得なパワー系フォワード彼が求めるのはただ一つ-ゴールである。
鍵を開けられずに苦戦しているのなら、ドアを蹴り破ってしまえば良いのだ。
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