不運かそれとも失態か: 今のアーセナルの苦境は夏の移籍市場での失敗の結果である
カイ・ハヴァーツが今季絶望の見込みであるというニュースが報じられた際の私の最初のリアクションは『ああ、完全に終わった』というものだった。
もちろん、正確に判断するためには少し時間をかけて情報を処理した方が良い。一日経って冷静に、ハヴァーツの離脱に対してどう感じるか、もう一度考えてみたが、恐らく『完全に』はとっても良いだろう。だが、それでもかなり『終わった』に近い状態には感じられる。
これは心温まる感想ではないし、もちろんミケル・アルテタが試合を勝利に導けるような解決策を見つけ出す可能性もある。
だが、アーセナルが今季チーム内得点王、そしてセンターフォワードをメインのポジションとしてプレイする唯一の選手を失ってしまったというのは事実だ。
もちろんアーセナルの今季が『終わって』いないことを心から願ってやまないが、今季のアーセナルの状況が絶望的になってしまったと感じずにいるのは難しい。
また、アーセナルファンのリアクションも、ここまで苛烈なものは久々に見たように思う。1月に誰も獲得しなかった時でさえも、ポジティブな結果ではなかったとはいえ、まだハヴァーツとマルティネッリがおり、そうは薄いが、先発メンバーに困るというほどではなかった。
だが、移籍市場が閉まってから一週間のうちに2人のアタッカーがハムストリングの怪我を負ってしまうとは、全く持って、全てが上手くいかないとはこのことだろう。
恐らくこの時に私はアーセナルが誰も獲得しないという決断を下したのはリスクだ、と書いたと思う。いろいろなプラットフォームでこれはギャンブルだとも言われていたが、ギャンブルという言い方はそこまで正確ではないかもしれない。
(一つだけ言えるのは、もしアーセナルがあなたをカジノに招待したとしたら、絶対に行くな、ということだけだ。)
ギャンブルは外れることもあれば当たることもあるものだが、今回のギャンブルには当たりに相当する結果が何かあるのかはわからない。もしかすると、夏により良い獲得のために資金を残せる、ということなのかもしれないが、今季だけ見ればこれはギャンブルではない。
今季に関して言えば、1月に誰も獲得しないというのはギャンブルではなく、ただのリスクだった。そして、必ずしもサプライズだったというわけではないが、結果的に、アーセナルが冒したリスクは大きすぎた。
選手はハードワークをこなし、リーグ優勝の希望をつなぎ、勝ち残っている全ての大会の全ての試合で1の勝ち点のために戦い、その過程で少しは幸運の女神が微笑んでくれることを祈った。
だが今季のアーセナルについていえば、運が悪いどころか何の運もない。
カジノに向かう途中でアーセナルは舗装のひびの上を歩き、鏡を壊し、何十もの梯子の下をくぐり、傘を室内で開き、劇場内で『マクベス』という言葉を口にし、黒猫の一団が前を横切って行った(訳注: 全て不幸を呼ぶとされている行動)。
ただ、直接的にファンが怒っているのは1月に何もしなかったことに対してであるとは思うし、それも理解はできるが、今の問題は夏にさかのぼるのではないかと思う。
ずっとシェシュコへのアーセナルの興味は報じられていたが、EURO前にこれが実現することはなく、ライプツィヒとシェシュコ本人が移籍するのであればEURO前と考えていたため、契約延長にサイン、もう一年残留することを決めた。
したがって、アーセナルがストライカーを獲得しようとしていたことは明らかだが、シェシュコ以降にあまり真剣に誰かの獲得に動いた形跡はなかった。ニコ・ウィリアムズの名前は報じられたが、公式オファーなどまで行った様子はないし、カラフィオーリ獲得も、スミスロウの放出が決まるまで待たなくてはならず、メリーノ獲得もエンケティアの売却を待ってという形だった。
そして、GKコーチがずっとエスパニョールのジョアン・ガルシアを獲得すべきだと言っていたが彼らが24m€を要求したので、そしてこれに関してアーセナルは正しい決断をしたと思うが、アーセナルは獲得を見送った。
そのため、ラムズデールが退団を希望し、ぎりぎりでサウサンプトン行きをクラブが許可した時に、エドゥの伝手を頼って同郷のネトを獲得する必要があった。
だが、これでプレミアリーグからのローンの枠は一つ埋まってしまうこととなった。
エンケティアとスミスロウだけでなく、ローンでビエイラとネルソンも放出したアーセナルにはアタッカーの補強が必要で、スターリングを獲得したがこれで国内からのローン枠はすべて埋まってしまうことになり、冬の移籍市場でプレミアリーグのクラブからローンでの選手獲得は不可能になった。
結果論だが、それならば単にネルソンをクラブに留めておけばよかった。
恐らくアーセナルはスターリングがもう少し活躍してくれると見込んでいたのだろう。そして、こうなってしまったからにはスターリングの中にまだ何か残されていることを願うしかないが、今季の彼の獲得はここまでの所大失敗に見えると言わざるを得ない。
スターリングにやる気がないなどどいうわけではないだろうが、少なくともピッチでの結果はついてきていない。
1月の時点で手術が必要だったサカは不在、ジェズスもACLの怪我で離脱しており、可能であればハイクオリティの即戦力、最低でもハヴァーツのような選手たちの負担を和らげられるようなローテーション要員、の獲得が必要だった。
『そうはいっても獲得できる選手が誰もいなかったのだ』派の意見も理解できるし、それに全く同意しないというわけではない。
例えば1月1日のアーセナルファンに、今年の冬の移籍市場で結果的に移籍した選手のリストを見せたとしたら『とはいってもその獲得ではだめだ』という答えも帰ってきただろうが、2/13の時点では彼らは遥かに魅力的に見えるに違いない。
その最高の例がオリー・ワトキンスだろう。
最初にアーセナルがワトキンス獲得に動いていると報じられた際にはアーセナルファンはあまり好意的なリアクションを見せなかった。60m€と報じられていた移籍金や29歳という年齢が理由かもしれない。あるいは、これだけの移籍金を冬にストライカーに費やしてしまえば、夏のFW獲得に影響が出るに違いないと感じられたせいかもしれない。
だが、もし今時を戻せるのであれば、オリー・ワトキンスは大歓迎ではないだろうか。
このような事態にアーセナルが陥ってしまった責任が誰にあるのか、という点に関しては、これは全体的な問題だということになるだろう。
エドゥが9月に去った影響もあるだろうが、とはいえアーセナルが1月に誰も選手を獲得しなかった理由が代理でディレクターを務めるジェイソン・アイトだとも思えない。
そもそもアイトはクラブが獲得するかしないかの決定権を握っていないだろう(もちろん、このこと自体が問題の一つである、という可能性はある)。
確かに、ワトキンス獲得に向けてアーセナルはある程度資金を用意しはしたが、適した選手がいなければ、冬の選手獲得は夏への影響が大きすぎるため控える、というのがコンセンサスだったはずだ。誰か一人がこの決定を下したわけではない。
そして、確かにクラブは1月の移籍市場での対応を間違えたとは思うが、理屈としては理解できないものではない。
リスクが大きすぎるとは思ったが、それでもクラブは決断を下した。
だが、結局のところ、上でも書いた通り、冬の移籍市場は夏の移籍市場の結果だ。確かに冬の移籍市場も追加で補強を行えるチャンスではあるが、タイトルに挑戦するうえでチームを救ってくれるような選手獲得を試みる時期ではない。
今のアーセナルの欧州での立場、そしてそれに伴ってチームを引き上げてくれるような補強が、世界でもトップレベルの選手に限られてくることを考えると、現実的には、夏の移籍市場での失敗を冬に挽回できるとは思えない。
だからこそ、今のアーセナルはこのようなことになっているのだ。
アーセナルは夏の移籍市場での動きに失敗し、そこからすべてが始まった(もちろん、先発出来るアタッカーが誰もいなくなってしまうほどの事態に値するレベルの大失敗だったとは思わないが)
ここから監督は何とか必死に出来る限りアーセナルの競争力を保つ形での、フォーメーションや戦術の変更、コンバートなどを考える必要がある。
なぜなら、このような事態においてもアーセナルはまだリーグで2位に居るからだ。昨日の試合でリバプールが勝ち点を落とし、アーセナルのシーズンはまだ終わっていない。
当初の想定よりもはるかに難しくなってはしまったが。
最後に、もう二つだけ、少し異なる点に関しても書こう。
まず、いうまでもなく、クラブ内部でも認識していることではあるだろうが、今回のような重い程度のハムストリングの怪我(サカは手術が必要で、ハヴァーツも少なくとも数か月の離脱・手術も必要な可能性もあり、マルティネッリは4週間以上は離脱)が立て続けに起きてしまったのはなぜなのか、原因の調査が必要だろう。
もしかすると単に不運だっただけかもしれないし、あるいはプレイ時間が多すぎたのが問題かもしれない。あるいはその半々かもしれないが、いずれにせよ確認すべきだ。最近のアーセナルはスタイル的にフィジカル面の要求も多く、もしこういった怪我が避けられないのであれば、それでも対応できるスカッドをくみ上げる必要がある。
第二に、アーセナルはFWとアタッカーに関して、そろそろいい加減に目を覚ます必要がある。
今のアーセナルにはユース選手を除けば攻撃的なMFがマルティン・ウーデゴールたった一人しかいない。彼の不在時にチームは大きく苦しむこととなった。
そして、アーセナルは最近多くのアタッカーを放出している。バログン、ビエレス、エンケティア、ビエイラ、スミスロウ、ネルソン。だが、獲得したのはスターリングとハヴァーツのみだ。さらに、ハヴァーツはそもそもMFとして獲得されたはずだ。彼がストライカーとして機能したのは幸運ではあったが、近年のアーセナルは前線の選手獲得に全く投資していない。
確かにマルティネッリが既におり、アカデミー卒のサカの台頭もあるが、アーセナルのライバルとなるチームと比べてFWへの投資が少ないことはアルテタ自身も認めている。
そんな中でタイトル争いから脱落せずにいることに関してアルテタや選手たちは評価されるべきではあるが、もしクラブがプレミアリーグやチャンピオンズリーグの優勝を真剣に目指しているのであれば、アーセナルの前線が抱える問題は解決されなくてはならない。
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