アーセナルの選手たちの万能性が示すクラブの今後の方向性

分析

今季のアーセナルのテーマは『コントロール』で、昨季のような攻守の入れ替わりが激しい試合を少なくし、より安定した結果を残すことがアルテタの目指す形ではないか、というのは特に今季前半良く語られたことだ。

さらに、プレミアリーグでの連続での大勝が示す通り、最近のアーセナルは試合のコントロールを手放すことなく、そこに昨季のような攻撃力も上乗せすることが出来ている。

そういった意味では見事に結果を残している今季のアルテタのアプローチだが、チーム全体ではなく、選手個人に目を移すと、今のアーセナルで特に特徴的なのは、非常に多くの選手が多くのポジションをこなすことのできる点だ。

今のアーセナルはサリバやサカといった絶対的な選手たちは、ほぼ固定されたポジションでプレイする一方で、その他の選手たちは非常に柔軟に、試合に応じて様々なポジションでプレイすることが多い。

その筆頭の冨安武弘は左右サイドバックに加えCBまで、最終ラインであればどこでもプレイできるし、ハヴァーツは中盤としてもストライカーとしてもプレイし、彼との連携が素晴らしいトロサールも、左でプレイすることもあれば、ワントップとして起用されることもある。

最近は中盤でライスよりもジョルジーニョが前に出る形も見られたし、ベン・ホワイトはチーム事情から起用されるポジションは右サイドバックが常だが、同じ位置でも、逆サイドの左サイドバックの選手次第でより伝統的なサイドバックらしくサイドを駆け上がることが多い試合もあれば、逆により中に入ってプレイすることが多い試合もある。イタリアではCBを務めたキヴィオルも最近は左サイドバックとしてのポジションをものにした。

起用ポジションが変動しないのはCBの2人とサイドのサカとマルティネッリ、そして中央に君臨するウーデゴールの5人くらいのものだ。

そして、これがある程度意図的にアルテタが目指したチームの形であるのは間違いないだろう。監督就任からアルテタは少しずつ時間をかけて、スカッドのほとんど全員が様々なポジションでプレイできるようなものに組み替えてきた。

上に名前を挙げた選手たちは皆アルテタが望んでチームに加えた選手たちで、最近クラブに加入した選手はトロサール、ハヴァーツ、ティンバーなどユーティリティ性の高い選手の割合が非常に大きい。

Embed from Getty Images

単純に一人の選手が多くのポジションをこなせれば、必要以上にスカッドの人数を増やさずとも複数ポジションの控えが確保できる、というメリットに加え、彼らのおかげで今のアーセナルは非常に変幻自在なチームとなっている。

ハヴァーツとトロサールが同時に起用された際、彼らは二人ともがFW・MF両方として状況に応じてプレイしてきた選手だし、ライスとジョルジーニョが先発メンバーに並んでいても、メンバー表からどちらがより高い位置でプレイするMFなのかを判別することはできず、試合が始まって何分か経たないことにはわからない。

昨季のアーセナルが思い知らされた通り、現代のプレミアリーグでは『戦術的いたちごっと』とでもいうべき戦術に対する対応合戦のサイクルのスピードが非常に速い。以前までであれば、一度圧倒的な選手たちとスタイルをものにしてしまえば、それで2-3年は覇権を争えたかもしれないが、今では翌シーズンには、あるいは同じシーズン中に多くの対戦相手が対策を講じてくることもざらだ。

したがって、優位性を保つためにはスピードで戦術を切り替えながら戦っていく必要があるが、それこそまさにグアルディオラの真骨頂であり(彼は全てが上手くいっており、特に変更の必要などないように思える時でさえも、常に戦いを更新しているように見える)、そしてグアルディオラにその戦術眼を買われ、彼のアシスタントを務めたこともあるアルテタも負けず劣らず得意とするところだろう。

そして、この柔軟さ、変幻自在性を実現するにあたって、ポジションが固定されている選手よりも様々な位置でプレイできる選手の方が有用であることは間違いない。これが、アルテタが今のようなチームのメンバーを揃ている大きな理由の一つだろう。

Embed from Getty Images

ここで興味深いのは、これが現在のアーセナルでポジションを確立しきれていない選手たちや、あるいは今後の補強にとって何を意味するのか、という点だ。

再び整理すると、今のアーセナルのスカッドは概ね①他のポジションで起用するのが勿体ないほどの圧倒的なパフォーマンスを見せる絶対的な選手、または②ユーティリティ性が高く、複数ポジションやエリアで高いパフォーマンスを見せられる選手、の2タイプの選手で構成されている。

もちろん契約や移籍金等の兼ね合いもあるため、全ての選手がこれに当てはまる、ということはないだろうが、アルテタが今後もこの方針を志向するとすると、今のスカッドの選手ではリース・ネルソンやエディー・エンケティアといった選手たちはかなり難しい立場にあるように見える。どちらも万能な選手、というタイプではないし、今の所起用された際に圧倒的なパフォーマンスを見せるには至っていない。

もちろん2人ともよい選手ではあるが、同じくどちらかというと職人タイプのティアニーですらローンで放出となっていることを考えると、彼らは本職でのプレイをのレベルをもうワンランク引き上げる、あるいはポジション的な柔軟性を身に着けない限りはいずれ放出となってしまうかもしれない。

一方で、この前提に立つと、よりアルテタから高評価されているかもしれないのがスミスロウだ。彼は左サイドを主戦場としてプレイしていた時期もあったし、ゼロトップとして起用されたこともあった。もちろんスミスロウには常にフィットネス面の不安が付きまとうが、コンディションを維持できれば、今後さらに序列を上げていってもおかしくはない。

より評価が難しいのがファビオ・ビエイラで、一時期はウーデゴールの代役としてチャンスを掴みそうな兆しもあったが、出場停止や怪我で一気にメンバー外となってしまった。ようやく復帰が見込まれており、また状況次第でサイドなどでもプレイ出来なくはなさそうなので、今季の残りと、残りの契約年数が2年となる来季の活躍がクラブでの今後を占うものとなりそうだ。

更に予測が難しいのがクラブの今後の補強だが、現在アーセナルは首位争いに参戦しているし、そこまで明確に穴となっており、補強が必要に見えるポジションは存在しない。昨季の今頃は既にアーセナルがデクラン・ライス獲得に動いているという話は報じられていたが、今の所誰かを明確にターゲットにしている、という話も特に聞こえてこないため、単にアーセナルが慎重に情報が漏れないようにしているだけかもしれないが、一方で実際にまだ明確なビッグターゲットを選定して動いている段階にはない、という可能性もある。

現在のメンバーの中盤の選手たちの年齢的には、誰かしら中盤の獲得を行う必要があるだろうが、ライスが君臨していることを考えると、どちらかというと必要なのはローテーション要員の選手だ。

放出の可能性から逆算すると、ティンバーが復帰すれば最終ラインの人数は足りている一方で、前線はかなり手薄にも思える。だが、現在トップで起用されているジェズスやハヴァーツ、トロサールといった選手たちより明確に優れているといえるストライカーを獲得するのは恐らく非常に難しく、かつ実現したとしてもライスを獲得した際のような移籍金が必要になるだろう。

Embed from Getty Images

一時期は決定力不足という話も取りざたされた今季のアーセナルだが、結果的には絶対的なストライカー不在でもリーグトップクラスの得点を挙げることに成功していて、ジェズスがサイドでも高パフォーマンスを残せる存在であり、更に既に両翼にはサカとマルティネッリがいることを考えると、どちらかというと、もう一人トロサールのような万能型のFWを補強することをアルテタは好むのではないかという風には感じられる(もちろん、ハーランドのようなストライカーが市場に出ていれば話は変わってくるかもしれないが)。

いずれにせよ、今季ここまでは変幻自在の選手たちを用いた新たなスタイルは良い結果を残しており、CLも含めてシーズンが進みさらに佳境に突入にするにつれて、今のアーセナルの立ち位置や課題もより明確に見えてくることだろう。

関連記事(広告含む)

Posted by gern3137