若手がユースアカデミーから昇格しアーセナルのトップチームで活躍するのに必要な条件とは?

分析

大方の予想通り、特に大きな動きはなかったアーセナルの冬の移籍市場だったが、アカデミーレベルでは多く放出が成立した。

セイゴージュニアやモンルイ、エドワーズといった選手たちが英二部や三部へローンでの移籍となったのはこれまでの方針通りと言えるが、一方で、リノ・ソウザ、ミゲル・アズィーズ、イブラヒム・ブラッドリーといったユース選手たちは完全移籍での放出となり、実質的に彼らのアーセナルでの旅路は一旦終わりを迎えることとなった。

これらに関しては、若手育成のアーセナルはどこへ行ったのだ、アルテタはもう少し若手を育てるべきではないのか、などといった声も上がったが、実際問題、今のアーセナルにユース選手の起用できるようなポジションがあるようには見えない。

リース・ネルソン、ファビオ・ビエイラ、スミスロウやキヴィオルといった選手たちですら出場機会を得られてない中、彼らを差し置いてユースから上がってきた選手がいきなりポジションを得る、というのはセスク・ファブレガスやジャック・ウィルシャー、ブカヨ・サカといった10年に一度クラスの余程のタレントでない限りはあまり現実的ではないだろう。

また、もう一つ注目すべきは、これは今季ローンに出ている選手にも言えることだが、今季放出となった多くの選手が既に19~21歳という年齢であるという点だろう。

現在アーセナルの主力となっているサカやマルティネッリ、サリバといった選手は18-19歳の時点ですでにトップチームで機会を掴んでいたし、今は少し伸び悩んでいるリース・ネルソンも19歳の時点でブンデスリーガで6得点を挙げていた。

これらの選手たちの実績を考えると、非常にシビアな言い方になってしまうが、19歳や20歳でまだユースチームでプレイしている、あるいは2部より下ののリーグに出ている時点で既にアカデミーから直接アーセナルのトップチームで台頭する、というのは現実的ではない、ということになってしまうだろう。もちろん、例外的に遅咲きの選手もいるとは思うが、そういった選手もどちらかというと一度プレミアリーグを離れてファーストチームで定期的に出場機会を得られるクラブでの活躍を経て、という形が多いように思われる(トップレベルに返り咲いた、とまで言えるかはわからないが、最近の選手であればアイザック・ヘイデンやクリスティアン・ビエリクあたりはアーセナルを離れていこう堅実に結果を出している。望む形での放出ではなかったが、ハッチンソンもチェルシー移籍後、ローン先のチャンピオンシップでかなり良いプレイを見せているようだ)。

さて、ずいぶん前置きが長くなってしまったが、つまりは、今のアーセナルのトップチームで主力としてプレイしているクラスの選手は皆18-19歳の頃にはすでにある程度の結果を残していたのではないか?というのが今回の記事で検証したい仮説で、実際に現在アーセナルでプレイしているユースチーム上がりの選手や、今は移籍しているものの、アーセナルアカデミーから昇格しトップチームでチャンスをつかんだ選手たちが10代の頃にどのような立ち位置にあったのかをそれぞれ調べてみた。

現所属組

このあたりはまだ記憶に新しいかと思うので、そこまで詳細は必要はないかもしれないが、まずはアーセナルユースから直接トップチームへ昇格してきた選手たちのキャリアを振り返ってみよう。

ブカヨ・サカ

プレミアリーグデビュー: 17歳

17歳から18歳となった19/20シーズンにプレミアリーグ26試合出場1ゴール5アシストを記録している。

エミール・スミスロウ

プレミアリーグデビュー: 19歳(ELでは18歳で4試合に出場している)

同年にチャンピオンシップにローン、19試合で2ゴール3アシストを記録、翌年20歳のシーズンでアーセナルの主力として台頭した。

エディー・エンケティア

プレミアリーグデビュー: 18歳

EFLカップのデビュー戦でいきなりノリッジ相手に2得点、チームを逆転勝利に導く鮮烈デビューを果たした。現在に至るまで、控えとしての散発的な出場も多めなので、いつをもって主力として定着した、と言えるかが難しいが、初めてプレミアリーグ10試合出場を記録したのは19/20シーズン(20歳)だった。

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リース・ネルソン

プレミアリーグデビュー: 18歳
エンケティアと同じく、今に至るまでアーセナルでは絶対的な主力とは言えないので、どのタイミングでトップチームに台頭した、と言い切れるかは難しいが、19歳から20歳になった18/19シーズンにはローン先のホッフェンハイムで7得点を挙げ、CLにも出場、翌年はアーセナルでプレミアリーグ17試合に出場した。

その他

ちなみにだが、アーセナルユース出身ではない英国組の選手たちを見てみると、それぞれライスは18歳でプレミアリーグデビュー、その翌年には既にウエストハムの主力となっており、ラムズデールは所属クラブの兼ね合いでプレミアリーグは21歳デビューだが19歳のころから英下部リーグで既に主力の座を掴んでいた。ティアニーは17歳でセルティックでスコットランド一部リーグデビューを果たしている。

今回紹介している選手たちの中では恐らく最も遅咲きと言えるのがベン・ホワイトで、ホワイトはブライトンでなかなか機会が得られず、4部、3部、2部、とローン先で結果を残して辛抱強くチャンスを待つ必要があった。とはいえ、22歳の時点ではこれらの経験を引っ提げブライトンでプレミアリーグデビューを果たしている。

既にアーセナルから移籍している選手たち

ジョー・ウィロック

プレミアリーグデビュー: 18歳
まだウィロックのアーセナル時代を覚えている方も多いと思うが、ウィロックは18歳でデビュー後ウナイ・エメリの下チャンスを与えられ、20歳で迎えたシーズンである19/20シーズンにはプレミアリーグ26試合に出場した。

メイトランド=ナイルズ

アーセナルユースチームあるあるの一つに『定期的にユースチームの試合を観戦しているファンなどから高評価を受けており、次世代のスターと評される選手より先にノーマークの選手がいきなりトップチームに上がってくる』というのがあるが、確か当時はユースチームの神童と言えばリース・ネルソン、といった雰囲気があり(加えて厳密にはユースの選手ではないかもしれないが、ジェフ・ルネ=アデレードあたりが次世代の若手として注目されていたように思う)、それより少し上の世代はそこまで注目されていなかったため、ネルソンより先にトップチームに定着したこのナイルズや、下に紹介するイウォビに驚かされた記憶がある。

プレミアリーグデビュー: 17歳
メイトランド=ナイルズのプレミアリーグデビューは何と17歳で、他のカップ戦などでのプレイ経験もない状態でいきなりCLのガラタサライ戦に45分出場している。流石はアーセン・ベンゲルといったところだろうか。

その翌年はチャンピオンシップのイプスウィッチへとローンに出て18歳で30試合に出場、主力の座をものにすると、その後一年は少し停滞したものの17/18シーズン(20歳)にはある程度安定してアーセナルのトップチームでの機会を得始めた。

イウォビ

プレミアリーグデビュー: 19歳

アレックス・イウォビはこの中ではかなりユニークなケースで、デビューこそ19歳と比較的遅いが、その後ほぼ即座にトップチームでのチャンスをつかみ、ローン移籍の経験などもなくいわゆる下積みのような機関が全くなかった選手だ。

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ほぼ無名の若手だったイウォビがCL決勝トーナメントバルセロナ戦でいきなり起用された時の衝撃を覚えている方も多いかもしれない。

プレミアリーグデビューを果たした同シーズン内に終盤にかけて8試合先発出場を果たしており、かつ翌年にはプレミアリーグ26試合出場とほぼ準主力と言っても良い地位を築き上げていた。

まとめ

さて、ここまで見てきたが、やはりアーセナルのトップチームに定着する、あるいはアーセナルから移籍となっても欧州5大リーグの一部リーグで活躍できるクラスの選手は17-18歳、遅くとも19歳にはトップチームでリーグ戦でのデビューを果たし、20歳頃には少なくともローテーション要員程度の地位は確立できている、というのがスタンダードなルートのようだ。

もちろん、例外的に遅咲きの選手もいないわけではないが、そのような選手が22-23歳以降までアーセナルに在籍を続けていきなりチャンスをつかんで活躍する、というようなシナリオは非常にイメージしづらい、可能性があるとすれば一度アーセナルを離れ他のクラブで出場機会を掴んで、ということになるだろう(唯一の例外として思い浮かぶのはエミ・マルティネスくらいだろうか)

最近ユース上がりで結果を残している選手がアタッカー/MFばかりなので、選手としてのピーク的には、DFはもう少し時間的に余裕があるのかもしれないが、とはいえアーセナルユース育ちではないがホールディングはアーセナル移籍初年度の20-21歳の頃にいきなり9試合に先発出場していたし、チェンバースはセインツで18歳で20試合以上プレミアリーグに出場していた。

これは今のサッカー界の競争の激しさを示しているともいえるし、また、掬いきれない才能が時折現れるのも事実だが、シビアかつ現実的に考えると、アーセナルのユースアカデミーからトップチームへの昇格を目指すのであれば、過去の傾向的には19-20歳頃にはすでにローテーション要員程度の戦力に慣れている必要があるといえる。

そこから逆算すると、やはり18歳あたりにはトップチームデビューを果たしておき、20歳ごろまでには英二部あるいは欧州5大リーグの中堅くらいのチームでローンに出て安定した出場機会を得る、くらいの実績を積み上げておかなければ、今後アーセナルのトップチームでユースから台頭するのは難しそうだ。

道のりはかなり険しいが、これは過去には先輩たちがくぐりぬけてきた困難でもあり、実際に現U-18の監督にはその生きる証人でもあるジャック・ウィルシャーがいる。現段階で彼の後に続くのに一番近づいていそうなのはイーサン・ヌワネリのように見えるが、上でも触れた通り、時々予想外のスターがすい星のように現れるのもユースチームの常だ。過酷な競争を勝ち抜き、次にトップチームでチャンスをつかむユースチーム卒の将来のスターが誰になるのか、楽しみに見守っていきたい。

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Posted by gern3137