【戦術コラム】3-1-6は4-3-3に代わるアーセナルの新スタンダードとなるか
プレミアリーグ開幕戦のノッティンガム・フォレスト戦で、アルテタはトーマス・パーティは中に入る右サイドバックとしてトーマス・パーティを送り出した。
この新システムには賛否両論あり、アルテタは考えすぎなのではないか等の意見も見られたが、個人的にはアーセナルがこのような変化を見せたことは非常にエキサイティングなことだと思う。
2022/23のアーセナルのシステムはほとんど固定されており、良いパフォーマンスは見せていたものの、相手にとって予測が簡単なものとなりつつあった。今のチームがさらに上のレベルに進むためには、何かしら予測不可能性をもたらすような変化が必要で、ガブリエルをベンチに置くというのは、考えうる限り最大のサプライズの一つだと言ってもいいだろう。
フォーメーション上はパーティが右サイドバックだったが、実際にはパーティがこの位置でプレイする時間は少なく、普段通りの中盤に入ってのプレイが多かった。ボール保持時にはほぼ常にパーティは中盤に居たし、そして、この試合のほとんどの時間でアーセナルはボールを保持していた。
今回の試合でより印象的だったのはパーティの開始位置が右サイドバックだったということよりも、時折彼が中盤で一人になる場面が見られたという点だ。昨季は基本的にはアーセナルは攻撃時は3-2-5のような形で、パーティと左サイドから中に入ったジンチェンコが最終ラインの前で中盤に残っていた。
だが、土曜日の試合ではパーティが中に入った際にアーセナルは3-1-6あるいは3-1-3-3のような形で最終ラインの前にパーティを一人だけ残す形となることが多かった。ライスも低い位置に留まらず、より前に上がっていたからだ。
では、なぜアルテタはこのような形を採用したのだろうか。アルテタは戦術に関しては公の場では言葉を濁すことが多く、本人に聞いたところで説明を得るのは難しそうだ。
システムの変更について聞かれたアルテタは試合後『中盤に流動性をもたらし、相手の守備に対応するためにスペースを埋めるためにもう一人中盤が必要だった』とコメントしていたが、実際の所、そもそもパーティは追加の一人となったわけではない。彼しか中盤にはいなかったのだから。
ただ、このコメントの内、これがフォレストの守備の形に対応した策だった、という点は興味深い。
フォレストのフォーメーションは数字で示すのであれば3-4-2-1のような形で、これはスタンダードな4-3-3にプレスをかけるのに適した形だ。中央の選手がサイドにボールを押しやって、CBがサイドにスライドし、WBが前に詰めることで相手のサイドバックにプレスをかけることが出来る。
ただ、サカとマルティネッリが非常に高い位置で相手のWBをピン止めしてくれるので、フォレストは前に3人しか選手がおらず、このプレスを回避するのに、アーセナルは後ろに4人の選手が居れば十分だった。したがって、昨季までであれば後ろに残っていた5人の内1人はフリーとなり、より前で相手の守備に圧力をかける役割を担うことが出来る。
このためデクラン・ライスは前に上がっていくことが出来、通常であれば5人の前線を6人にし、フォレストがマンツーマン、5対5で対応するのを防いだということだろう。
試合を通してアーセナルが3-1-6(3-1-3-3といってもいいが)の形でフォレスト相手にすうてき優位を作り出す場面が何度も見られた(下の画像ではカメラの外、左にエンケティアがいる)。
相手の攻撃的MFはアーセナルの最終ラインの相手をし、かつカウンター時に備えていることが多く、サカやマルティネッリにボールが出た時に対応するには離れすぎており、フォレストは困った状態に追い込まれることとなった。
彼らに残された選択肢は、サカとマルティネッリ相手に1対1が発生してしまうことを許容するか、中のCBをサイドに寄せて2対1の対応を行うか、あるいは(これはこの試合ではほとんど見られなかったが)中盤の一人をサイドに派遣するかだが、これを行うと中盤の相方は一人で広大なスペースをカバーしなくてはならなくなってしまう。
どのオプションも好ましいとはいえず、フォレストはCBを一人サイドに送り2対1で対応することが多かったが、これにより実際にクロスが入った時には中で対応できる選手が一人少なくなることになった。
この試合でアーセナルが昨季のどの試合よりも多くボールを持ち、試合をコントロールしていたというのは特筆すべき点だろう。このボール保持をより多くのチャンス、シュートに繋げていくのが今後の課題となるだろうが、既にボール保持で相手を封殺する、という新しいアーセナルの形は見られた。
この試合でアーセナルは902というボールタッチ数を記録したが、これは22/23シーズンのどの試合よりも多いものだった。
前に6人を置く今回の試合の形ではサカとマルティネッリがより自由になる形が多かったのは興味深かった。
試合序盤にマルティネッリがホワイトのスルーパスに走り込む場面があったが、この時フォレストはアーセナルの人数をかけた攻撃に対応するために7人の選手を自陣深い位置に戻しており、ボールを失った場合のカウンターのリスクもほとんどなかった。
また、ベン・ホワイトがCBの位置での起用となったことで、昨季素晴らしかったサカとの連携が失われてしまうのではないか、というのが懸念点だったが実際には何度も変わらずオーバーラップを見せており、この点に関しても心配は不要だった。
例えば、下の画像ではハヴァーツが素晴らしいポジショニングでフォレストのサイドの選手と同時に相手のCBも引き付けており、ホワイトが右サイドバックのようなポジションでオープンになれている。
ホワイトはライスが後ろに控えていた場合に前の6人に加わることも多く、この場合サカが中に入る形となっていた。同じような形はハヴァーツが外に流れ、マルティネッリが中に入ると言うように、左サイドでも見られた。
例えば、以下の場面ではアーセナルの一番外にいる二人はハヴァーツとホワイトで、中央のウーデゴールにより近いポジションにサカとマルティネッリは位置している。
この形であれば、昨季何度も見た光景だが、サカが1対2で対応された場合に、大外を回ってホワイトがオーバーラップをすることが出来る。
また、逆サイドではティンバーが中に入って中盤の位置を取り、ライスが最終ラインの一員となる、というローテーションも見られた。
ライスは積極的にティンバーに中盤のポジションを取ら陽とすることも多く、実際にアーセナルの2得点目もティンバーがマルティネッリにボールを供給したところから始まった。
また、冨安が入って以降は、彼はティンバーほど前に上がってはいかなかったため、逆にライス自身が中央に上がっていきフォレストの選手を引き付ける形が多かった。
ただし、冨安も全く前に上がらなかったわけではなかったし、今回の試合のように守備的な態勢で試合の臨むチームを相手にした際に、アーセナルのDFが果たす役割は興味深い。
アルテタは彼らにポジションチェンジの自由を与えており、CBだと思った選手が中盤に居たり、あるいはウイングの位置まで上がって居たり、ということが良く起こる。
これはティンバーに特によく合ったシステムなので、来節以降はもう少しこのアプローチは落ち着いたものとなるかもしれない。どちらにせよ、この形がベン・ホワイトの良さを非常によく行かせる形であるのは間違いないし、もしティアニーが残留するのであれば、守備意識の高い冨安よりむしろ攻撃意欲の高いティアニーに合った戦術だと言えるかもしれない。
恐らく次のパレス戦ではアーセナルはまた違った顔を見せるだろうが、それは歓迎すべきことでもあると言える。今季は毎週細かい戦術変更が見られることになりそうだ。
フォレスト戦でアーセナルはボールとエリアを圧倒的に支配したが、それが得点にはつながらなかった。次回このアプローチを採用する際には、よりシャープに攻撃の最終局面に繋げる必要がある。
もちろん、アルテタと選手たちもこれはわかっているはずだし、フォレスト戦のように勝利をおさめ、勝ち点を得ながら戦術を磨き上げることが出来るのであれば、多少危うい試合展開となること自体は大きな問題とはならないはずだ。
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