【永久保存版・移籍市場の裏側】選手獲得交渉はどのように進むのか
先日、The Athleticのアーセナル担当のジェームズ・マクニコラス記者が非常に興味深い動画をアップしていました。
こちらの動画内で、何故交渉→公式オファー提出までに時間がかかるのか等含め、実際に移籍交渉とというのは一般的にどのように行われるのか解説されていたので、その内容を紹介します。
ここまで詳細に移籍の裏側が解説されているのは日本語英語問わず、初めて見た気がします。
暗黙の了解と最初のステップ: 選手本人へのコンタクト
一応はルールとして、他クラブ所属の選手に所属クラブの許可を取る前にコンタクトを取り交渉を開始してはいけない、というのがあるが、実際は慣例的に、多くのクラブが暗黙の了解として、クラブ間交渉を開始する前にクラブが獲得を望む選手の意向を確認することを容認している。
したがって、大体の場合、クラブが選手獲得を検討し始めた場合、最初の一歩は該当選手にコンタクトをとることから始まる。
選手との交渉の開始: クラブの興味を伝え、意向の確認
大体の場合は、スカウトやエドゥのアシスタントなどと、選手の代理人、あるいは家族など、選手の意向が確認できる相手との話し合いの場が持たれ、クラブの興味を伝え、選手の意向を確認する。
また、スカウトの重要な仕事として、単純に分析やスカウティングするだけではなく、このような相手との関係性を良好に保つこと、かつ、仮に現時点でアーセナルが興味を示していない選手でも、移籍の兆候などがあれば把握できるようにアンテナを張っておくことがある。
また、これはまだ非公式のコンタクトの段階なので、この選手側の意向の確認は代表のチームメイトにきいてもらう、などといった形で行われることもある。
この段階では一応公式のアプローチではない、という体裁を保つために、基本的にはエドゥやアルテタといった人物は選手の代理人にコンタクトをとることはしない。
エドゥと代理人の会談
その後、このあたりから本格的に交渉開始となり、次はエドゥと選手の代理人の話し合いとなる。
ただ、この段階ではまだどちらかというとプロジェクトやチームへのフィットなどの話がメインで、大まかなイメージ程度は念頭にあっても、具体的な給与の話などは行われない。
一旦エドゥと代理人の話が上手く進んだことを確認し、リチャード・ガーリックが給与や条件面の提案の選手側への作成を進め、次のステップへと進む。
アルテタとの面接
個人合意の鍵となるステップが選手とアルテタの会談で、これは電話で行われることもあれば実際に会って行われることもある。ただ、この段階まで来てしまうと、クラブがアプローチしていることは否定のしようがないので、このステップはかなりデリケートで、クラブ側はこの話し合いの場が持たれたという情報が外に漏れないように細心の注意を払う。
一応エチケットとしてルールは守っている、という姿勢は見せなくてはならず、例えばクラブ間の最初のコンタクトが7月で、6月から選手と交渉していた場合などに、移籍時のインタビューで選手が『6月にアーセナルが連絡をくれた時は本当にハッピーだった』のようなコメントをした場合『一応交渉開始は7月ということになっているから、時期には触れないでくれるか?』とカットされたりする場合がある。
これは一般的に受け入れられている慣習ではあるものの、選手の所属クラブにこの情報が伝わっていることもあれば、伝わっていないこともあり、また不快感を示すクラブもあれば、ライスのケースのように、どこかしらへの移籍が決定的となっている場合はクラブは特に気にしないこともある。
もちろんスカウティングやスタッツの分析など、ピッチ上でのプレイに関する情報は選手がアルテタと話す前に詳細を既にクラブは把握しているものの、この段階で初めてプライベートな場でアルテタと選手が話すことになる。エドゥが同席することもある。
これは人間性などから見てチームにフィットするか、アルテタやアーセナル側が判断する場であると同時に、逆に複数のクラブから興味を示されており、移籍先を迷っているような選手であれば、アーセナル移籍が何故良い選択肢なのかをアピールする場にもなる、2方向の面接。
実際にアルテタが選手と話した後で、その選手の獲得を取りやめた、というケースも過去にはいくつかある。
クラブ間交渉
ここまでが選手との交渉で、同時並行で進められることもあるものの、基本的には選手との合意の取り付けは、クラブ間交渉に先立つ形で実施され、獲得したい選手の所属クラブにファーストコンタクトを取るときには選手と個人条件で合意しているのが理想となる。
最初の一歩: 問い合わせ
一応移籍リストや、それを活用したアプリもあるが、そもそも選手はそこに載せられるのをあまり好ましく思わず、かつクラブが特定の選手の放出を望んでいることを知られてしまうと交渉に不利なので、余り活用されていない。
したがって、大体の場合は選手獲得を望む場合は選手の所属クラブに直接コンタクトを取って問い合わせる必要がある。
これに対する返答は2通り考えられ、①価格によっては売却のつもりがある②売却のつもりはない、だが、クラブの関係性が良好であれば、①の場合は即座に移籍金が決まり、一瞬で売却が成立することもある。
だが②の場合は買い手側が売り手側のクラブが本気で言っているのか、それとも交渉を有利に進めるためにいったん拒否しているのかを見極める必要がある。
もちろん問い合わせ段階で本気で売却の可能性はないと否定されても、オファー自体を出すことは出来る。アストン・ヴィラのスミスロウ獲得オファーの例。冬のブライトンもカイセドに対して同様のスタンスだった。
リチャード・ガーリックの仕事
オファーを出したり、交渉をしたりする人物はクラブによって異なる。監督、ディレクター、オーナーの場合もある。アーセナルのカイセド獲得交渉はティム・ルイスが行った。
獲得の見込み/交渉の余地がある場合に、売り手クラブ側の要求額と、アーセナル側の希望額の間を埋めるような調整を行うのがリチャード・ガーリックの仕事。
ガーリックはどちらかというとアーセナルの代表というよりも、アーセナル上層部と売り手側クラブの上層部を取り持つ人物、のようなスタンスで話をする。
例としては
『50m£?難しいね、うちのクラブは30m£と言っている。私もこの取引は両クラブにとって素晴らしいものになると感じているし、是非実現させたい。ここは私に任せてくれないか、35m£なら引き出せるかもしれない』
のようなイメージ。
なので、交渉の開始地点である第一のオファーが売り手側クラブの希望額を下回るのはある種必然と言っていい。
『公式オファー』が全てではない-オファー提出が遅れる理由
基本的には交渉において、公式オファー自体はそこまで大事ではなく、より長期的に続く交渉を区切る役割に過ぎない。短いテキストメッセージやメールでオファーが提出されることもある。
①余裕を見せるため
オファーが拒絶された翌日に次のオファーを持っていくと、相手側から余程この選手を獲得したいんだろうな、と思われてしまい、足元を見られる可能性がある
②取締役会での承認が必要
新オファーを出すためには取締役会での承認が必要。なので、すぐに新オファーを出すわけにはいかない。恐らくアーセナルは他のプレミアリーグよりもこのプロセスを慎重にゆっくりと行うクラブ。
売り手クラブとの調整の前に、内部で『この額ではオファーは出せませんよ、破断してしまいます。もっと移籍金が必要です。今がチャンスなので、絶対に5m£増額すべきです』のような調整をオーナーと行う必要がある。
③売り手クラブとの調整
そもそも、次のオファーを公式に出す前に、どのような条件であればオファーが受け入れられる可能性があるか、売り手クラブ側と調整し、見極める必要がある。
売り手側が出す条件を全て飲んだオファーを出すことは稀で、相手側が内部で交渉したのちに最終的に受け入れるだろう、というラインを見極めたオファーを出す必要がある。
大体の場合、移籍オファーに対して売り手クラブが『OK!』と言ってくることは少なく、最後の大筋の合意が実現した段階で『ここをもう少しこうしてほしい』のような、移籍の成立を前提とした最終調整が行われ、そして取引が実現することになる。
より詳細の内容に関しては、こちらの配信でも話しました。
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