【戦術分析】ジンチェンコとアーセナルのプレス回避

スタッツ・戦術Lewis Ambrose,海外記事

今季のアーセナルのビルドアップは比較的ハイリスクハイリターンであり、相手のハイプレスに遭った際のボールロストを防ぐことが重要だ。そして、それはオレクサンドル・ジンチェンコがチームでプレイする際にはかなり容易になる。

かつてユルゲン・クロップは『プレスこそが最高のチャンスメイクだ』と語り、高い位置でボールを奪い、まだ組織されていない相手チームの守備の穴を突き、シュートまでもっていくのは非常にポピュラーな戦術となっており、現代サッカーにおいては多くのチームがアグレッシブなプレスを展開している。

それはアーセナルも同様で、前からのプレスはアーセナルの強みの一つだといっていいだろう。

だが一方で、ジンチェンコがプレイした際のアーセナルは相手のハイプレスにとても強い。

ここまでアーセナルはリーズ戦で11回、フォレスト戦で8回、PSV戦では7回、サウサンプトン戦では6回のハイ・ターンオーバーを記録(相手陣40ヤード以内でのボール奪取、この場合は自陣40ヤード以内で相手にボールを奪われた回数という意味になる)されていた。

今のアーセナルは自陣でのミスをうまい守備で取り返すことができる場合も多い。

だが、ジンチェンコが復帰した日曜日のチェルシー戦ではアーセナルは自陣40ヤード以内ではチェルシーにたったの2度しかボールを奪われなかった。かつ、これらは2回ともシュートにつながらなかった。

アーセナルはチェルシーのプレスをうまく回避できており、これにジンチェンコが果たした役割は非常に大きかった。

今季左サイドバックでもプレイしている冨安健洋とジンチェンコのパスを受ける位置のヒートマップを比較してみると、そこには興味深い違いがある。

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冨安も、ジンチェンコと同じく中には入るが、ジンチェンコほどビルドアップの早い段階では入らない。彼が中に入る際はよりカウンターに備えるため、という守備的な面が大きいはずだ

一方で、ジンチェンコが中に入る際は、アーセナルのボール保持を助けるため、というのがボールを失った際に備えるのと同じくらい重要な理由となっている。

ジンチェンコは素晴らしい技術を持ち、ボール保持時に極めて冷静だ。これは、相手チームを引き延ばし、攻撃を行う上で非常に大きな武器となる。

そして、それこそがキーラン・ティアニーではなくジンチェンコがいきなりチェルシー戦で先発した理由だろう。実際に、彼の起用はアーセナルがチェルシー相手に試合をコントロールするうえで非常に大きなファクターだった。

その素晴らしい例が、試合開始直後、3分の場面だ。スターリングがもしガブリエルにボールが出るよう出ればプレスをかけようとしており、同時にオーバメヤンがサリバへのパスを見張っている。ホワイトへのパスを狙うようであれば、マウントがプレスに行ったはずで、ハフェルツはトーマス・パーティへのボールをパスカットしようと狙っていた。

だが、トーマス・パーティがハフェルツの脇に下り、その逆側にジンチェンコがスペースを見つけることで、アーセナルは数的有利に立ち、彼はフリーなスペースを見つけられていた。

チェルシーの中盤は押し込まれ、引き伸ばされていたため、この場面で援護に駆け付けられなかった。アーセナルの中盤の選手はマーカーを連れて外に開くことが多く、中央にスペースができることが多かった。

チェルシー戦ではそうして生まれたスペースに何度かジェズスが降りてきて、チャロバーを最終ラインからつり出すことでマルティネッリあるいはジャカのためのスペースを作るようなプレイを見せていたし、上の画像の場面では、ジョルジーニョがジンチェンコを追ったところで逆にウーデゴールが空いてしまっていた。

その後ボールを受けたウーデゴールはサカへとボールを供給し、結局チェルシーはサカをファウルで止めなくてはならなかった。

振り返ってみれば、これはアーセナル-チェルシー戦の今後の展開を予言するかのような一連の流れだった。チェルシーはアーセナルのビルドアップを止めるのに手を焼いており、数的不利に陥ってプレスがうまくいかないことが多かった。

そして、アーセナルはこの試合でマルティネッリが裏に抜けるような形と、ジンチェンコが外に開くよう形から惜しい場面も作れていた。

今のアーセナルは技術レベルが高いだけではなく、自信にもあふれている。

そのおかげでチームは試合をコントロールできるようになり、華麗なポジションチェンジで相手を惑わしながらビルドアップから攻撃を組み立てることができている。

チェルシーはこの試合で、人数をかけて前からプレスに行こうとすれば、後ろのスペースが空いてしまうし、逆に走りこんでくるマルティネッリのランについていこうとすれば、今度は外が空いてしまうし、という状態になり、非常に困っていたに違いない。

アーセナルが強敵相手のアウェイ戦で、このようにボールを保持し、試合の主導権を握った形で勝利を収めることができたのは非常に大きな一歩だといえるだろう。あと一勝を挙げることさえできれば、チームはリーグ首位でクリスマスを迎えることができる。

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Posted by gern3137