【戦術コラム】アルテタアーセナルの攻撃の仕組みと課題を徹底分析 前編

スタッツ・戦術海外記事

アーセナルファンなら既にご存じだとは思うが、期待が大きければ大きいほどダメージも大きい。

週末の予定を諦めスタジアムに通う、あるいは夜明け前にアラームをセットし試合を観戦し、ただ贔屓のクラブが黄金時代からネタクラブへと転落を見せつけられるのは楽しいものではない。

そして、一筋の光が差し込んだ気がし、これこそがターニングポイントになるかもしれない・・・!と思う。『ついにだ!古き良き日々が返ってくるぜ、ベイビー!』

2018年エメリ監督就任直後の成績の向上はまさしくこのように感じられた。

もちろん、その後ファンはさらに深い絶望に投げ込まれたわけだが。

エミレーツスタジアム上空を『ベンゲルアウト』のバナーが舞っていた時代よりさらに悪いことになるとは。すぐに、4位はトロフィー、とネタにされていたあの頃はまだよかったと思えるようになる。

アーセナルを軌道修正するために、クラブはエメリの後任としてミケル・アルテタを招聘した。元アーセナル選手で、最近はペップの元コーチを務める、という好ましい経歴だ。

またしてもスペイン人監督がアーセナルに希望をもたらし、マンチェスター・ユナイテッド戦で2-0で勝利した際にはこれが始まりになるかと思われた。

アーセナルはビッグゲームで勝利を収められるようになり、FA杯とコミュにシティシールドも優勝した。

だが、今ではおなじみとなってしまった憂鬱なアーセナルの現実にまたしてもファンは引き戻されることとなる。2020年の12月にはアーセナルは順位表の下半分をガッチリと定位置にしてしまい、チェルシー戦に勝利し、アルテタが少しチームを立て直す前には彼の解任を叫ぶ声も上がった。

結果とストーリーに一喜一憂をするのを止めてみると、いくつか確かな点がある。

まず、中盤でブロックを用いる傾向にあるアルテタの元、確かにエメリ時代よりアーセナルの守備は改善した。

一方で、攻撃はこれでもエメリ時代よりはましだが、CL出場権を目指すクラブとしては物足りないレベルで停滞している。

今季アーセナルはプレミアリーグ17試合で20得点しか挙げられていない。そして、オーバメヤンも不調に陥り、90分あたり0.13のオープンプレイからのゴール、という普段の彼からは考えられない成績だ。

アーセナルに足りないのは決定力というわけではなく、アーセナルが一試合当たり1.3のxG(得点期待値)しか挙げられておらず、これはリーグ10位だ。

より詳細にこのxGを見ていくと、単にガナーズはシュート数が少なすぎ、かつリーグ上位のクラブと比べてシュートを打つ位置もたいして良くはない。

アーセナルの攻撃にはいろいろな要素があるが、ビルドアップからセットプレイまで、良い点も悪い点も合わせて、一つずつ見ていこう。

相手のプレスを誘うための深い位置からのビルドアップ

今のアーセナルで目立つのは、深い位置で相手のプレスを誘う、細かいショートパスの連続によるビルドアップだろう。

自陣深い位置で、そして近い距離でのパス交換からは相手のプレスを誘う意図が見てとれる。そこからどこかのタイミングで一気にテンポアップし、相手がプレスに前掛かりになった後ろのスペースを狙うという事だ。

これは何度か上手くいったが、回数は限られている。最近はアルテタ時代の前半ほどこの形からチャンスを作れなくなっている。

まず私が考えたのは、①相手チームが狙いに気づき、以前ほど前からプレスに来なくなった、あるいは②コロナ禍の過密日程の影響で相手が積極的にプレスにこないのではないか、ということだった。

だが、これは事実ではなかった。アーセナルがGKからボールをつないだポゼッションに注目して確認してみたが、大抵の場合、相手はこれに反応してプレスをかけに来ている。

にもかかわらず、この形からの攻撃がうまく行く回数が少ないのは、単にこの仕組みはハイリスクな戦法で、うまく遂行することが難しいからだろう。

ディフェンシブサードからギアをあげて前にパスを入れるタイミングでミスが起こることも頻繁にあるし、自陣で選手が追い込まれ、アバウトなクリアやロングボールに逃げざるを得なくなることもある。

後者は特にロブ・ホールディングに起こることが多く、彼はルイスやガブリエル、ティアニーほどパスがうまいとは言えない。

アルテタサッカーとも呼ばれた深い位置からの攻撃の形は、毎週安定して繰り出せるような難易度のものではないのだ。

もちろん、うまく行ったときにはこれは素晴らしいゴールにつながるし、それはチェルシー戦でのサカのゴールなどからも明らかだ。

3-4-3におけるボール前進の問題点

もしあなたが私と同じくらいのサッカーオタクだとしたら、あなたも何度かアーセナルのスタッツをチェックしてみたことがあるだろう。

それらを見れば、アーセナルがボールを前に運ぶことに関して問題を抱えていることは明らかだ。アーセナルが1度のポゼッション当たりボールを前進させる距離は40.7ヤードで、これはリーグ10位だ。

アーセナルのポゼッション時の緩やかなパス回しは、非常にポゼッション偏重型のチームのそれで、自陣でのボールタッチ数が多い。アーセナルはリーグで最もダイレクトではないチームの一つだ。

もちろんこれはあくまでスタイルの話であって、これ自体が良い悪いという話ではないが。

最近はあまり見なくなったが、アーセナルが主に用いていた3-4-3では、以下のような形でボール前進を行うことが多かった。

見ての通り、ティアニーが左のCBの際にはサイドに残り、4バックの左サイドバックのような位置で、レノがCBに近い位置でビルドアップに加わる形だ。

ベジェリンは少し中寄りの位置をとり、時折はウイングより内側をアンダーラップを見せることもあったが、ナイルズはどちらかというと中にとどまることのほうが多かった。

ジャカあるいはエルネニーが務めた左のCMFはより低いポジションを取り、時々は左に落ちることがあった(これはむしろ、アーセナルが4バックの時の方がよくみられる)

そして、ラカゼットはボールを受け取りに後ろに降りてくるのだが、これに関してはもう少し後でより詳しく話をしよう。

3バックにより一人最終ラインの人数が多く、2人の中盤の選手が低い位置にいることで、後ろからのビルドアップは容易になる。

だが、大体の場合はここからミドルサードにボールを進めるのが問題で、特に、中央からボールを進めようとしたときのオプションの欠如が顕著だった。

10月のホームでのレスター戦がそのよい例だ。

見てわかる通り、アーセナルの選手たちは相手の中盤のブロックの外側にポジションどっており、だれもパスを受け取れない。セバージョスは外に開きすぎており、かつ前すぎるため、相手にパスレーンをふさがれている。

基本的に、アーセナルはビルドアップ時に中盤のラインが切り離されてしまっているのだ。

また、このころのアーセナルによく見られたのが2人のMFが同時に同じようなスペースに一度ってしまう現象だ。これが起こるときに、アーセナルの大きな問題点である相手の中盤のラインに対する選手配置が最も顕著に見られた。

両サイドのウイングはパスの受け手となれるようなポジションをとることがほとんどなく、結果として相手の中盤とアーセナルの前線との間には大きな穴が開いてしまう。

こちらはトッテナム戦の例だ。

こうして、アーセナルのビルドアップがUターンを強いられることはよく見られる現象になり、横パスとバックパスが多くなってしまった。前にパスのオプションがないからだ。

パスマップというのは時として出来の悪いクリストファー・ノーランの映画のように理解するのが難しいものだが、arseblogのDom Curriganが作成した、レスター戦のパスマップを見れば、それの意味するところは一目瞭然だ。

アーセナルには中央から前に進めるパスのオプションがほとんどなく、結果として中盤で横パスを繰り返すことになる。

大抵の場合、パスが出せる場所はサイドだけで、特にサウサンプトンはサイドでプレスをかけるのが非常に得意で、サイドのパスが頻繁にボールロストに繋がってしまった。

もちろん、対戦相手に関わらず、単純にサイドへのロングパスを失敗せず通し続けるのは難しいし、かつ、通ってもチャンスにはつながりづらい。したがって、これはなかなか効率の悪い作戦だ。

ラカゼットのポストプレイは過小評価されていると思うが、ボールを受けに下がってこなくてはならないので、彼が最も輝けるポジションから離れなくてはならず、これもアーセナルが中央にパスのオプションがないことによって生じる現象だ。

オーバメヤンもライン間でプレイするよりも裏に抜けるのが得意なタイプだし、ウィリアンも今のアーセナルでは右サイドのタッチライン近くを走るようなプレイを見せる。

4-2-3-1採用による改善

もちろん、これらは3-4-3事態の問題というわけではなく、あくまでアーセナル版の3-4-3、そしてそれに伴うポジショニングの問題だ。

だが、上に述べたような問題は、アーセナルが最近の数試合で4-2-31を用いた際にはそこまで現れない。

まだサンプル数は少ないが、ボールを前に進めるのはトップ下の存在によってより楽になる。アーセナルの場合はスミス=ロウだが、彼はビルドアップ時のポジショニングが良く、相手の中盤のラインのすぐ後ろでパスのオプションとなるが得意だ

サカの状況判断力は素晴らしく、彼のような右サイドにいるのも大きな助けになっている。彼はいつもアタッキングサードのどこにいればよいかがわかっており、常にパスのオプションとなることが出来る。

まだまだアーセナルのビルドアップはアルテタの理想からは遠いだろうが、これはシンプルに、前線でオプションとなれるような選手を起用するだけでも大きくチームは変わるということを示している。

(後編に続きます)

source:

関連記事(広告含む)

Posted by gern3137