現在のアーセナルの運営体制の問題に関して 前編
今のアーセナルが抱えるピッチ上の問題に関しては、既に色々なところで多くの方が書いているので、今回は一旦アーセナルのチームのパフォーマンス自体は脇に置き、クラブの運営体制やチーム作りの方針など(というか主にその問題点)に関して書いてみたいと思う。
監督選定の方針と選手獲得の方針の矛盾
ベンゲル時代終盤~アルテタ招聘までのアーセナルの流れ
個人的に、今のアーセナルに関して最も疑問に思うというか、きちんと運営されているのだろうか、と不安になってしまうのがこの監督招聘と選手獲得の方針の矛盾だ。
どういうことかというと、まず前提として、最近のアーセナルはよく言えば即戦力、悪く言えばその場しのぎ的な選手獲得が多い。アーセン・ベンゲル監督の時代終盤からずっとそれは共通している。
オーバメヤン、ラカゼット、ムヒタリアン、ソクラティス、コラシナツ、レノ、リヒトシュタイナー、ルイス、セドリック、ウィリアン、マリ、パーティ。
これらは皆、20代後半や30代の選手で、将来性を見越してというよりも、アーセナルで即戦力となるべく連れてこられた選手だ。逆に言えば、再売却による資金回収の可能性が残る若手とは違い、即戦力となれなかった時点で失敗、という獲得という事になる。
もちろんそれが悪いというわけではないし、それぞれの獲得が成功だったかどうかはいろいろな意見があるだろう。オーバメヤンやレノなど、だれがどう見ても成功だといえるようなものもある。
ただし、上述の通り、彼らの再売却からアーセナルが金銭面で利益を上げるということはないし、基本的に皆給与が高額だ。したがって、彼らへの投資はピッチ上での結果という形で回収する必要がある。
若手はピッチ上での活躍におけるリスクはあるが金銭面でのリスクは少なく、ベテランはピッチ上での活躍のリスクは少ないが金銭面でのリスクが大きい、といったところだろうか。
もちろん、タイトル獲得とは言わずとも、これらの選手の獲得により、例えばCL出場権が取れればリターンとしては十分だったと言えるだろう。
つい最近までのアーセナルは5-6位くらいの順位におり、アーセン・ベンゲルの抜群の実績、エメリも経験豊富で特にELの優勝経験が多いことを考えると、少し金銭的なリスクを冒してでもCL出場権を狙いにいく、というのはそれほど見込みが薄い賭けだったということはないはずだ。
これがそこまで非合理的な判断だったとは思えない。
だが、結局のところアーセナルはこの賭けに負け続けた。最終的にベンゲルはクラブを去り、エメリのチームも空中分解してしまった。
将来への積み上げはならず、残ったのはそれぞれの監督の要望に応じて集められたためアンバランスで、かつ比較的給与の高い選手たちだけだ。
アルテタの将来性
そこでアルテタの招聘となったわけだが、この時点でアルテタの監督経験はゼロだったわけで、将来を見据えた人事なのではないか、と感じられた。
つまり短期的な将来を見据えた起用が立て続けに失敗に終わったため、そろそろアーセナルもチームの再建には2,3年はかかると腹をくくって、今すぐ結果が出せなくてもいいのでアルテタの将来性に賭けよう、という方針なのか、と思われたわけだ。
監督経験がなく、その実力が未知数なアルテタを招へいするというのは例えるのであれば、トップレベルでの経験がまだない17歳のスター候補の選手を獲得するようなもので、もし即座にチームを立て直し、結果を出すことを求めるのであれば、プレミアリーグ経験もある、海千山千のカルロ・アンチェロッティなど、ほかにも候補のオプションはあった。
もし仮にアーセナル上層部がアルテタが即座にチームを立て直し、すぐにでも魔法のように4位以内に導いてくれると期待していたのだとしたら、それはさすがにハードルのあげすぎというものだ。
実際に、FA杯こそ優勝したものの、ヨーロッパリーグは早期敗退、プレミアリーグは昨季は8位、現在は12試合を終えて15位と、この数字だけ見ればアーセナル、そして現有戦力を考えても納得がいくとは到底いえない成績となっている。
エメリが解任された時点での成績はこれよりは良かったし、もしベテラン監督が今の成績を残していたとしたら、解任もやむなし、という状況に今のアーセナルがあるのは間違いないだろう。
ただし、現在のアーセナルの成績を正当化できる可能性が唯一あるとすれば、それは、アルテタの監督としての将来性、そして、現在は変革の途中であり、今季や来季の成績が散々だったとしても、2年後、3年後に良い成績を収めるうえでこれは必要なプロセスなのだ、というロジックだろう。
実際にこの意見には一理あるように感じられるし、チェルシーのようなケースもあるにはあるが、監督をひっきりなしに変えてよい結果を出せるチームというのは多くなく、もしアルテタが前評判ほど有能なのであれば、彼を信じて任せるというのも一つの手だろう。
そして、実際にアーセナルフロントとオーナーはそのつもりでいるのだと思う。
アーセナル/アルテタのチーム作りは長期的な将来を見据えているか?
ずいぶんと前置きが長くなってしまったが、しかし、ここで疑問となるのが、上記の姿勢とアーセナルの選手獲得の方針の乖離だ。
例えば、ユルゲン・クロップは2015年の秋にリバプールの監督に就任し、トップ4入りを果たすまでに3年、CLまでに4年かかっており、昨季のリーグ優勝はほぼ5年かけて成し遂げている。
仮に、同じようなタイムスパンをアーセナルがアルテタに対して期待しているとしよう(クロップのドルトムントでの実績を考えると、アルテタにはむしろクロップ以上の時間を与えないとフェアではないような気もするが)。
だとすると、今季欧州コンペティション出場権を獲得することは最優先の課題ではなく(もちろん、可能であればそれが実現できるに越したことはないだろうが)、むしろ将来を見据えたチーム作りこそが重要だという結論に必然的に達するはずだ。
しかし、アルテタ監督就任後も、基本的にアーセナルの補強戦略は以前と全く変わっていないように見える。
もし3年後を見据えたチーム作りをするのであれば、何故パブロ・マリやセドリック・ソアレスなのだ?
現在の立ち位置を見るにこれらの二人はいわゆるスカッドプレーヤー、ローテーション要員というやつで、将来を見据えたチーム作りをするのであれば、これらのポジションにこそ若手を置くべきではないか?(もちろんこれらの獲得の責任者と思われるサンジェイはすでにチームを去っているのだが。ただし、エドゥはもともとサンジェイ体制の一員ではあった)
サンジェイが去って以降、アルテタ&エドゥ体制の初めての移籍市場と言える直近の夏の獲得にしても、ウィリアンに2,3年後のアーセナルに居場所があるとは思えないし、トーマス・パーティですらワールドクラスの選手だが27歳で、まだまだ活躍はしてくれるだろうが、例えば彼と天秤にかけられたと思われるフセム・アワールと比べて将来性がある、というわけではない。
リバプール(彼らが今のレベルにたどり着くのにスアレスとコウチーニョという当時のチームのスター選手の売却が大きな役割を果たしたことは言うまでもない)、あるいはより極端な例でいえばドルトムントやアヤックスのようにまず選手を育成しその売却益をもってさらに投資を行い数年後にトップクラスのクラブに返り咲く、という確固たるビジョンのもとクラブが運営されているとは思えない。
もちろんこれ自体が失敗だったと思うわけではないのだが、この理屈で言うと、オーバメヤンの契約延長にしても同じだ。
もちろん彼は今のチームにとって大きなものをもたらす選手だが、数年先を見据えるのであれば、世代交代に舵を切るために、オーバメヤンに支払う超高額の給与の分を他に回す、という決断の方がどちらかというと合理的に思える。
これらのアーセナルの動きとアルテタの将来性に賭けた監督招聘、というアクションの整合性がとれていないのが最近のアーセナルフロントの非常に気になる点だ。
(試合を挟んでしまいますが、また金曜日の後編に続きます)
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