【スタッツ用語解説】xG(ゴール期待値/得点期待値)・xA(アシスト期待値)・失点期待値・シュート後得点期待値とは?
最近非常によく聞くようになったxGまたはゴール期待値/得点期待値というスタッツ用語ですが、何となくイメージは分かるものの、具体的にどういう定義の数字なのか、というのは意外と知られていないのではないでしょうか。
今回はxGだけでなく、それと関連した期待値系のスタッツの意味をまとめて解説したいと思います。
xG(=Expected Goals: ゴール期待値/得点期待値)
恐らく、スタッツの発展に伴って今回紹介する中で一番最初に登場した用語で、その他の期待値系の用語の基準となるといってもいいのがこのxG・正式名称Expected Goalsです。
日本語ではゴール期待値、あるいは得点期待値と訳されますが、個人的にはこの後登場するxG allowedと合わせて得点期待値、失点期待値と訳すのが一番しっくりくる気がするので得点期待値の方の和訳を推したいところです。
xGとは
xGとは、非常にシンプルに言えば、『チャンスの質を表す指標』ということになります。統計的に見て、過去の同じような状況のシュートがどれくらいの確率でゴールに繋がったかを1(=100%)をマックスとして表す数値です。
チャンスの質を表す指標なので、シュートを打つ選手の能力などは考慮されません。あくまで平均的な能力の選手がそのポジションでシュートを打った場合にゴールに繋がる確率、という数字です。したがって、いわゆる"決定力に秀でる"といわれる選手たちはxGより多い割合で得点を決めることが多いです。
例を挙げると、ペナルティエリア外からのロングシュートは入る確率が低いのでxGは0.03(3%)程度であったり、逆にゴールの前で流し込むだけの状態であれば0.8(80%)だったり、などといったことですね。
ちなみに、PKは統計的に76%の確率で得点されるので、一律で0.76のxGが割り当てられています。
考慮される要素
では、どのようにしてxGが算出されるのかというと
・シュートが放たれた位置: ゴールからの距離と角度
・シュートを打った体の部位: 足か体か、ヘディングか
・パスの種類: クロスか、スルーパスか、セットプレイか等
・攻撃の状況: 相手の守備が整っているか、ドリブル突破後のシュートか、リバウンドのシュートか等
様々な要素を考慮したうえで算出されます。
少し注意が必要なのは、xGは大体は似たような方針で算出されるものの、いくつかモデルがあり、モデルによって数字に結構ばらつきがある点です。同じシュートでも、スタッツを出しているサイトによってxGは0.5だったり0.65だったりする、みたいな場合があります。
例えばStatsBombが提供するxGは、シュートが放たれた瞬間のピッチ上の選手の位置も考慮されており、どれくらいシュートとゴールの間に相手選手がいるか、などの要素も計算されています。
xGの用途
では、この指標がどういった分析に役立つのかを見ていきましょう。
・選手の得点力
一番分かり易いのがこちらで、放ったシュートに割り当てられたxG以上の得点を挙げている選手は運が良い、あるいはそれを継続的に成し遂げているのであれば、チャンスの質が高くなくとも得点できる選手、とういことになります。
例えば、アーセナルのピエール=エメリク・オーバメヤンは19/20シーズンのプレミアリーグでのxGの合計は15.7ですが、実際には22点とそれを6点以上上回る得点を挙げています。このシーズンは規格外の数字ですが、彼はアーセナルに移籍して以降の3シーズンで、xGを実得点が下回ったことはなく、継続して高い決定力を誇っているといえます。
・チームのチャンス創出力
また、xGをチーム全体で見て、そのチームがどれくらいのチャンスを作り出しているのかを測ることも出来ます。(同様に、対戦相手にどれくらいのxGを許しているかで、どれほどチャンスを作られているかを測ることも出来る)
ただし、選手個人の場合は継続してxG以上の得点を挙げる怪物ストライカー、のようなケースもありますが、そのような選手が5人も6人もそろっているチームは世界中に多くないので、チームがxG以上の得点を挙げている期間が続いている場合は、長期的に見ると、最終的に期待値と大差ない数字に収束していくことが多いです(つまり、ラッキーな期間はずっとは続かないことが多い)。
例えば、ウナイ・エメリ時代初期のアーセナルは無敗を継続していましたが、当時からxG的にはいつ負けてもおかしくない内容の試合が続いていることが指摘されており、その予言はシーズン終盤に当たることとなりました。
また、チーム全体の一連の攻撃でのxGは各シュートのxGの合計と必ずしも一致しないので注意が必要です。
つまりこれはどういうことかというと、例えば『xG0.3のシュートが枠内に飛んだがGKに弾かれ、それをダイレクトで撃ったxG0.6のシュートがポストに当たり、そこに詰めていた選手がxG0.8のシュートを決めた』のようなケースを想定してみてください。
全てのシュートのxGを合計すると1.7となりますが、2本目、3本目のシュートのxGは"一本目、二本目のシュートが外れた結果"として発生したことになります。
また当然ながら、一回の攻撃で得られる最大の得点は1であり、それにも関わらず期待値が1を越えてしまうのは不自然です。
したがってこのようなケースでは、チームが作り出した得点期待値は(1-上述のシュートをすべて外す確率)=(1-0.7*0.4*0.2)=(1-0.056)=0.944のように計算されることが多いです。
xA(=Expected Assists): アシスト期待値
この得点期待値を、アシストとして表したものがアシスト期待値で、実際に得点に至ったかにかかわらず、シュートに繋がったパスに何点分の価値があるのかを評価する指標です。
以前は単純に、放たれたシュートの得点期待値をそのままそのシュートに繋がったパスに乗せた値がアシスト期待値として使われていましたが、最近では、例えばoptaのアシスト期待値はパスの質などを考慮し、独自の指標で算出されているそうです。
例えば、FBrefによると、19/20シーズンのプレミアリーグの最多アシスト期待値を誇るのはデブライネで18.4、実際のアシスト数は20となっています。
2位はそこから大きく下がりアレクサンダー=アーノルドで9.7ですが、実際には13アシストを挙げているので、デブライネにも言えることですが、パス/チャンスの質と比較して、リバプールとシティの攻撃陣の決定力が光ります。
xG allowed / xG against: 失点期待値
理屈としては得点期待値とまったく同じなのですが、自チームが創り出したチャンスではなく、相手に作られたチャンスをxGで評価したものをxG allowed(許したxG)あるいはgoals for/goals againstという表現にならってxG againstと呼びます。
被ゴール期待値、のような言い方ですが日本語には失点というちょうど良い言葉があるので、失点期待値という訳語がしっくりくるように感じます。
こちらはxGとは逆で相手に与えたチャンスの質を表す指標なので、チームが与えた失点が失点期待値を下回っていた場合相手FWのミスに救われている、あるいは長期的にそれが続く場合はGKの能力が非常に高く、失点物のシュートを何本もとめていると考えられます。
またしてもアーセナルで言うと、19/20シーズンのアーセナルの失点期待値は56.1ですが実際にはそれを大きく下回る、48失点しかしていません。
ただし、xG自体は、その位置でどのような選手がシュートしたかや、その位置からどのようなシュートが打たれたかを考慮しないので、失点期待値より実失点の方が少ない、というだけでは必ずしもGKが活躍したかどうかはわかりません。
相手チームがビッグチャンスを枠外に外した場合でも、自チームのGKがセーブした場合でもxG的には関係ないからです。
そこで、GKの能力を評価するために最近使われているのが次の指標です。
post-shot xG: シュート後失点期待値
xGがシュートが放たれる直前までの状況を考慮した(=チャンスの質)指標だったのに対し、シュート後失点期待値はその名の通り、シュートが放たれた後の失点可能性の高さを評価するための指標で、どれだけ難しい位置からシュートが打たれたかに関わらず、シュートの質を加味して失点の可能性を計ります。
Stats PerformはこれをxG on target(枠内得点期待値)と呼んでいますが、StatsBomb/FBrefが用いている、post-shot xG(シュート後失点期待値)という用語の方が直感的に意味がイメージしやすい気がするのでこちらを使いたいと思います。
つまり、例えばペナルティエリア外からのロングシュートが得点につながる可能性は低く、ほぼ0に近いxGしか割り当てられません。
しかし、それはあくまでその位置から枠内に威力のシュートを放つのが技術的に困難だからです。
もし非常に優れたテクニックを持った選手がペナルティエリア外からゴール上隅に突き刺さりそうな弾丸シュートを放ったとしたら、これはGKにとっては止めるのはかなり難しいはずです。
したがって、こういうケースでは通常のxG的には0.02-3程度でも、シュートの質が非常に高いため、シュート後失点期待値は0.5、のような状況が生まれる、ということになります。
逆に言えばゴール前での大チャンスでも、ストライカーが枠外にシュートを外してしまえばその時点で失点の可能性はないので、シュート後失点期待値は0となります。
これを踏まえて今季のアーセナルのGKのスタッツを見てみると、19/20シーズンのチーム全体のシュート後失点期待値はなんと、58.5で、失点期待値(56.1)よりも高いため、対戦相手からは十分に質の高いシュートが飛んできていたことがわかります。
しかし、実失点は48点なので、レノとマルティネスの二人でシーズン総計で10点分を防ぐセーブを見せてくれたという事になります。
(FBrefには掲載されていないのですが、このpost-shot xGはGKを評価するだけではなく、攻撃陣の選手のシュート能力を評価するのにも使えるような気がするので、GKごとではなく、シュートを打った側の選手ごと、あるいはチームごとの数字も欲を言うと見たいところです。)
とりあえず、主要なものはこのような感じですが、いかがだったでしょうか。
このxGをそれぞれの一連の攻撃に割り当てたxGチェーンなど、xGを利用したスタッツはまだほかにもいくつかあるのですが、それらはもしまた次回気が向いたら解説しようと思います!
参考:
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