【戦術分析】アルテタのチームはいかにしてマンチェスター・シティを打ち破ったか

スタッツ・戦術Lewis Ambrose,海外記事

アーセナルを取り巻く雰囲気は一週間で劇的に変わり、ダービーの落胆からなんとリバプール(こちらは若干幸運だったとはいえ)とシティを連続で撃破して見せた。

シティ戦でアーセナルはリバプール戦とは少し異なった布陣を見せた。とはいえ、メンバー的にはサプライズ選出といえるのはメイトランド=ナイルズくらいだった。

これにより我々は5バック4バックなのか議論を交わすこととなったが、結果的には最近ではもうお馴染みとなった前者が答えだった。

シティは4-3-3で来るだろうと想定されていたが、デブライネをより低い位置でギュンドアンの隣で起用する4-2-3-1のような形だった。

機能し始めるハイプレス

このポジショニングにアーセナルは序盤手を焼き、最初はシティが試合を優位に進めた。

ラカゼットがプレイを司るギュンドアンをシャットアウトする役割を担っていたのは明確だったが、デブライネのポジショニングのおかげで、プレスをかけるのはより難しくなり、シティに試合をコントロールさせるのを許していた。

この時点ではアーセナルはこれまで何度も目にした通り、仕方なく後退し、自陣に引きこもって何とか守り切ることを狙うかと思ったが、この日のアーセナルは違った。ジャカを前に押し上げ試合の主導権を奪い返そうとしたのだ。

ジャカはどんどん高い位置をとり、デブライネの受け手としての役割をブロックするようになった。これにより、シティが数的有利を作るのを防ぎ、アーセナルのプレスをかわすことをより難しくした。

もちろんこれによりジャカの後ろにスペースが空いてしまうという危険はあったのだが、一人余分にCBがいる分、彼らが前に飛び出して、シティがロングボールを選択した時も1人余分に選手を確保できていた。

アーセナルがシティの布陣を理解し、対策がかみ合ってくると、アーセナルのプレスは素晴らしかった。ラカゼットがギュンドアンをマークし、オーバメヤンとペペがCBへのパスを狙い、カバーシャドウ(相手のパスの受け手を隠すようなポジショニングをとること)でサイドバックへの長いボールもケアした。

シティがボールを前に進むのに苦戦するのにつれて、ダビド・シルバがボールをもらいに降りる場面もあったが、それにはセバージョスが付いていくことで対応した。

このようにMFが前に上がっていくことができるのは、5バックで一人余分にCBが後ろに控えているからこそだといえるだろう。

また、ベジェリンとナイルズもアグレッシブなプレイを見せた。ボールがどっちのサイドにあるか次第で、一人は中に入り、結果的に4バックのような形を形成した。

この場面ではラポルトがロングボールを蹴らされ、これに競り勝ったルイスがオーバメヤンに大チャンスを演出した。

得点機につながったのはこれだけではない。またしてもラカゼットがギュンドアンについていき、デブライネがそれを利用して低い位置でボールを受けようとしたが、ジャカがこれについていき、ボールを奪い取った。この後のオーバメヤンのパスが良くなく、チャンスには至らなかったが。

ハイプレスの一番の利点は、もし成功すれば、攻撃の手間が省けるということだ。ボールを持った途端にすでに相手のゴール前で、敵の守備陣は乱れている。これをアーセナルが定期的に続けることができれば、どんなチームが相手でもチャンスを演出できるだろう。

忍耐強いビルドアップ

だが、プレスはアーセナルの勝利の一つの要因に過ぎない。後ろからのビルドアップが上手くいったのも非常に大きかった。このアプローチはリスクも伴うが、スターリングがムスタフィに自陣ボックス内でタックルをしあ場面では何とかアーセナルは難を逃れた。

恐らく多くのファンはこのような状況下でとりあえず蹴っ飛ばせ!と思っていたに違いないが、もしそうしていたらアーセナルの一点目は生まれていなかっただろう。

ノースロンドンダービーでは、我々がチャンスを作り出せなかったら要因の一つが、相手をボールを取りにつり出すことができなかった。だが今回は違う。シティは常にアグレッシブにボールを狙っていたからだ。

これらをいなしてプレイするには冷静な頭脳と常にパスの受け手になれるようなポジショニングの優秀さ、状況判断力、そしてそれを遂行できる技術が必要なる。

アーセナルはこれらの多くを備えていることを示した。試合の早い時点で何度かフリーに攻撃できる良いチャンスがあったし、これが実を結ぶのに時間はかからなかった。

ウイングバックのポジショニング

また、今回の試合で興味深かったのは両サイドバックのポジショニングだ。アルテタは攻撃時に"フロント5″ を形成し、ピッチの幅をフルに使うことを好むが、ウェンブリーではこれに多くのバリエーションが見られた。

いつもの片側のサイドバックだけが中に入る形ではなく二人ともが状況に応じて二人ともが中央に入っていくのを厭わなかった。

例えば、得点の場面ではベジェリンが中におり、ギュンドアンがペペ相手に数的有利を作ることを防いでいた。

このようなポジション移動は自然と行われ、アーセナルの攻撃をより予測が難しいものにし、シティDF達を混乱させた。

この下の例では、メンディはペペをカバーに行くべきか、あるいは外側のベジェリンをマークにいくべきか迷わされていた。

逆サイドではオーバメヤンが大外を務め、ナイルズが中に入り、ウォーカー相手に数的有利を形成し、もしこちら側にボールが回ってくればチャンスになるぞ、と言わんばかりにシティにプレッシャーをかけていた。

また異なる場面では、サイドバックが二人とも外に張っていたりもした。5人が横並びになる形はアルテタが指揮を執り始めてから何度も現れていたが、このようにそれを形成する人員が入れ替わりながら柔軟に行われる形は初めてだった。

シティの修正

この試合の前半は本当に素晴らしいパフォーマンスだった。

しかし、後半はアーセナルはより苦戦することになる。シティが戦術を修正し、ボール保持時に3バック+そのすぐ前にギュンドアンという形に変更してきたのだ。

ウォーカーが3人目のDFとして機能し、メンディが左の深さと幅を提供した。この形相手に、アーセナルのプレスは冗長になってしまった。

オーバメヤンとペペの役割が左右非対称なせいで、シティに数的有利を作られ後ろからつながれるようになり始めた。オーバメヤンがウォーカーに寄っていくと、デブライネがフリーになってしまう。このおかげで右のより高い位置で彼が影響力を持ちはじめた。

だが、ウォーカーのポジショニングにはデメリットもあった。カウンターに備えることはできたが、かなり中に絞ったポジションのため、後半の最初の15分間何度かアーセナルは左サイドからチャンスを演出できていた。

ナイルズとオーバメヤンは連携して3度こちらのサイドを脅かしたが、ファイナルボールの質が足りなかった。

アーセナルの堅守

また、深い位置で守備をする際にはアーセナルは相手に最低限のスペースしか与えず、技術に秀でた選手でさえも苦戦するような状況を作り出せていた。そして、二得点目が完ぺきなタイミングで訪れたのも非常に大きかった。

後半はボールを保持され、押し込まれながらもシティに決定機はほとんど与えず、素晴らしい守備を見せた。

まとめると、前半は素晴らしいパフォーマンスでアーセナルに勝利の光明をもたらし、一方で後半はソリッドで勝利を取りこぼさない大人なパフォーマンスだった。

マンチェスター・シティのようなチームに勝利するためには、優れたゲームプランと、少しばかりの幸運が必要だ。

チャンスを生かし切る必要があり、かつピッチ上の選手たちの調子が良い必要がある。だがこれらをもって、アルテタのチームは監督就任からたったの7か月と28日で、FA杯決勝の舞台に立つ権利を手に入れたのだ。

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Posted by gern3137