【日本一詳しい?】アーセナル選手名鑑20 メスト・エジル
エジルのプロフィール
Embed from Getty Images・名前: メスト・エジル
・国籍: ドイツ
・年齢: 31
・身長: 180cm
・アーセナル加入: 2013年
・Transfermarkt算出の市場価値: 17M€
・豆知識1: プレミアリーグ記録となる7試合連続アシストという記録を保持している(2015年9月~2015年11月)。
・豆知識2: ドイツ代表でもチームメイトのマニュエル・ノイアーとは小学校が同じ。
・豆知識3: 憧れの選手はジネディーヌ・ジダン
・豆知識4: 代理人はもともと父親が務めていたが、それを兄のムトゥル・エジルに変更した際に揉めに揉め、父が兄に5000万円の賠償金を求めて訴える、という泥沼の家族抗争に巻き込まれている。
エジルの長所・魅力
・アシストキング
・ファンに優しく、常にチャリティへの寄付を続ける人格者
・化け物じみた視野から繰り出すパスがお洒落すぎる
・地面にたたきつけるシュートがお洒落すぎる
・"ラスト・ファンタジスタ"
(エジルの超絶お洒落パス集)
エジルのアーセナル移籍の経緯
エミレーツスタジアム建設の借金返済のために、無名の若手やユース選手を育てては売却する、という経営をずっと続けてきたアーセナルが長い苦労の時を経てついに大金を選手に費やす余裕が出来た時、真っ先にアーセン・ベンゲル監督が白羽の矢を立てたのがこのエジルだった。
あれだけCBや守備的MFの補強を求める声が上がっていた中、真っ先に獲得したのが世界一のトップ下たるメスト・エジルだったのは本当にベンゲル監督らしい。
最近のパフォーマンスにはその破格の給与とも相まって、賛否両論あるものの、突然移籍の噂が上がり、移籍市場の最終日にレアルマドリードでスタメンを張るドイツ代表の司令塔がアーセナルに、という経緯は衝撃度という点ではここ10年で一番だったのではないだろうか。
ギリギリまでそんな馬鹿な、まさかエジルがアーセナルに来るわけがない、と世界中のアーセナルファンが思っていた。
だが、エジルがブレーメンからレアルマドリードに移籍した際にもベンゲル監督は声をかけていたようで、その際には『もし僕が次に移籍することがあったら絶対に連絡します』というやり取りを交わしていたのだとか。
その約束通り、約4200万£という当時のアーセナルの移籍金記録を大幅に更新する額の移籍金でアーセナルへ電撃移籍を果たしたのだった。
もう気付けばアーセナルに7年在籍しており、ユース組を除けばチーム一番の古株となっている。
エジルの特徴・プレースタイル
エジルのスタイルに、名前を付けるのであれば"モダン・ファンタジスタ"だろうか。
かつてはサッカーの花形であったリケルメ、ロベルト・バッジョといった魔法のようなプレイを見せる選手たちは時代が進むにつれて、現代サッカーの波にのまれて少しずつ居場所を失っていった。
運動量、フィジカル、守備とオールラウンドに備えている選手が重用される現在のサッカー界では、魔法の右足、あるいは左足を備えているだけでは十分ではなくなってしまったのだ。
強まるプレスの網をかいくぐってファンタジスタたちが仕事をするのは難しくなり、現代ではプレイメイカーの役割をこなすポジションが、ボランチ、あるいはセンターバックへとどんどんと下がっていっている。
それに伴って、ストライカーの後ろでプレイするMFたちもいわゆるハードワーク型、あるいは万能型の選手が増えている中で、エジルは異彩を放つ存在だといっていいだろう。
ドイツの育成組織でエリート教育を受けて育ったため戦術理解力は高く、また今のアルテタ率いるアーセナルで証明している通り、監督が求めるタスクを遂行できるだけの運動量も備えている。
スペインからの移籍当初は心配されたフィジカル面だが、見事に肉体改造に成功し、かつての華奢だったころの面影はもうほとんどない。
だが同時にエジルは、サッカー界から少しずつ失われていっているファンタジーの最後の雫のようなものを未だにそのプレイの中に残す、数少ない選手でもある。
常人には信じられないようなビジョンとアイディア、相手DFの裏をかく発想力。そして何より、頭の中に思い描いた絵をピッチ上で実現させるだけの非常に高い技術。
あくまで僕個人の意見だが、これらを全て備えたエジルはプレースタイルとしては伝統的なイメージからは異なるかもしれないが、ファンタジスタと呼んで差し支えないと思うのだ。
そして、何より観るものを惚れ惚れさせるプレイを見せるという点で彼はまさにエンターテイナーだ。それと同時に、モダンサッカー界で生き残るための強さと速さも兼ね備えている。
Embed from Getty Images特に際立っているのはパスの上手さとチャンス創出力で、キャリアを通してのアシスト数はヨーロッパでもトップクラス、かつアーセナルでのキーパス数も常にチームトップを走っている。
・・・こんなことを言うのは若干申し訳ないが、19アシストを記録し、アンリのもつプレミアリーグアシスト数の記録更新にあと一歩と迫った2015/16シーズン、ジルーがもう少しだけ決めていてくれれば(この年ジルーは38試合出場で16得点と悪かったわけではないのだけれど。)、きっとこの記録は更新できていただろう。
唯一欠点があるとすれば、非常に高い技術を誇る割に得点数がとても少ないことだろうか。強引にシュートを打ったりする場面はほとんどなく、チームメイトへのパスを優先する傾向があり、そのせいかシーズン2桁得点することは稀で、リーグ戦では大体5得点位にとどまることが多い。
普段のシュートは特にうまいというようには感じないが、変態的な技術から繰り出すバウンドシュートとでもいうのか、なんという名前で呼べばいいのかわからないのだけれど、地面にボールを叩きつけてループ気味のシュートで相手GKを欺く、というとんでもない凄技から何点も決めている。
他の選手がこのような形でシュートを決めているところは見たことがないのでとんでもない技術のはずだが、エジルがこのバウンドシュートを放つときは恐らく得点率100%なので、もうちょっと頻繁にやればいいのじゃないか、とすら思う。
(バウンドシュートとは↑これのこと)
最近のアーセナルでは、別に衰えている、という感じでもなく(というかむしろ以前より運動量は増えている気がする)、パスの上手さは相変わらずなのだが、ベンゲル監督時代にはボックスのすぐ外で虎視眈々とスルーパスを狙っていたのとは違い、プレイエリアが下がってきており、どちらかというとビルドアップへの貢献が多め、という試合が増えている。
また、大きなけがが少なく(よく風邪は引くが)、長期離脱もほとんどないため、主力選手が必要な時に居ない!という事態に慣れっこになっているアーセナルファンにとってはコンスタントに年間3,40試合出場してくれているのは嬉しい所だ。
とはいえ、そんなエジルももう31才であり、10月には32歳となる。アーセナルでの契約は残り一年となっており、夏の去就は不明だが、どちらにせよ、彼がトップレベルでの活躍を続けられる時間はそこまで長くは残っていないだろう。
今季の時点で既にエジルをチームの中心に据えることに疑問の声が上がり始めていたし、いかにエジルがモダンサッカーの申し子とはいえ、守備面で若干の不安を抱えていることは事実だ。
ヨーロッパのトップレベルのクラブを見渡してみても、トップ下、というポジションがチームの配置に存在すること自体が希少になりつつあり、リバプールのように全員が攻守両面でハードワークをこなせる3枚の中盤を並べたり、あるいはマンチェスター・シティのデブライネのようにファンタジスタというよりも万能超人型の攻撃的MFを起用することが世界の潮流となってきている。
正直、今後のサッカー界でエジルのような存在が再び現れるのかどうか、あまり自信が持てない。もしかすると、もう彼らの居場所は永遠になくなってしまったのかもしれない、とすら思う。
それが、僕がエジルのことを"ラスト・ファンタジスタ"と呼ぶ理由だ。彼は時代の要請にこたえて生まれた最後の世代のファンタジスだったのだろうか。
もちろん、そこまで悲観的になる必要はないのかもしれない。サッカーというのは常に人々の想像を超えていくスポーツだ。各ポジションに万能なエリートたちが揃っており、世界最強とも謳われたドイツ代表がチーム完成のために必要としていた最後の1ピースが、エジルのもたらすアクセントだったことは記憶に新しい。
もしかすると、そのうちに脈々と受け継がれるファンタジスタの系譜を継いだ選手が再び表れ、僕らを魔法にかけてくれる日が訪れる可能性だって大いにある。
そして、そんな日が来たときには僕らはきっとこういうのだろう。『現代のファンタジスタ、メスト・エジルの再来だ。』と。
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コメント一覧
一番重要なことは、彼の西洋的価値観に対しるアプローチは、マイルスデイビス等、黒人音楽家に近い。最初はアンクルトム的でも、アーセナルに来てからの闘いはサッカー、そして人類の未来をいざなうもの。…でなければ、バスケがそうなるだろう。