鋼の強さを備えた魔術師 デニス・ベルカンプ
24年前、アーセナルはイングランドサッカーに革命を起こす選手を獲得した。現在のアーセナルを形作るにあたってアーセン・ベンゲルの果たした役割は非常に大きいが、同じくらいベルカンプの存在も大きかったという見方も出来る。もしアーセナル暦とでもいうものがあるとすれば、それはB.B.(Before Bergkamp)とA.D.(After Dennis)の二つに分けられるべきだろう。
彼と契約したのはベンゲルだけではなく、ブルース・リオクだが、恐らくこの元ボルトン監督の影響よりも、デイビッド・ディーンの人を説得する才能の方がベルカンプを惹きつけるにあたってより重要なファクターだったと思われる。
幸運なことに、ベルカンプは北ロンドンに親近感を持っており、グレン・ホドルやアーチボールドといったトッテナムの選手のプレイを見て育ったのだという。だが今彼は世界中のアーセナルファンの崇拝の対象であり、トッテナムファンとして北ロンドンを訪れた彼はアーセナルレジェンドとしてロンドンを去ることになった。
ベルカンプの獲得は全てを変えた。彼はイングランドにやってきた本物のスターであり、退屈さを特徴としていたアーセナルにスタイリッシュなサッカーをもたらした。彼のおかげで他の選手もイングランドを魅力的な移籍先だとみなすようになり、プレミアリーグのヨーロッパでの評価は上がった。
Embed from Getty Imagesそして、ピッチ上ではベルカンプはいつも印象に残る選手だった。素晴らしいファーストタッチ、お洒落なチップキックあるいは敵陣を切り裂くパス、何にせよ一試合に一つは思い出に残るようなプレイを見せた。
もしベルカンプが今の時代を生きており、彼のプレイがGIFや動画にされる時代であれば、彼は世界中のネット上のアイドルになっていただろう。Youtubeが日常的なものになるのはずっと後のことだが、彼はまるで、歩くYoutubeのハイライト動画だった。
アーセン・ベンゲルはかつて、ロベール・ピレスを評して『チームのエンジンの潤滑油』と言った。だとすれば、ベルカンプはアーセナルの体をつかさどる脳だということが出来るだろう。
彼の知的なプレイが奏でるシンフォニーは複雑な動作もいともたやすく見せてしまう。ベルカンプがいなければ、"ベンゲルサッカー"は理想に留まり、現実に実現することはなかっただろう。ベルカンプが居なければ、無敗優勝もなかったかもしれない。
彼は、二面性を持った選手だった。彼を際立たせたのはその技術面の素晴らしさに間違いはないが、彼の粘り強さも見過ごされるべきではない。彼は、勝者とアーティストであることの両立が可能だと示してみせたのだ。
彼は魔法と鋼の強さを併せ持った選手だった。彼は、魔術師だが戦士でもあった。時にはずる賢いプレイも見せたが、同時にどんなスタジアムも光で満たすことが出来た。
そして、彼の個人技が素晴らしかった一方で、チーム思いの選手でもあった。彼とコンビを組んだFWは皆素晴らしいプレイを見せた。イアン・ライトは彼とコンビを組んで復活し、アネルカは彼とプレイすれば年齢に見合わず落ち着いて見えた。
アンリを世界で最も恐れられたFWに成長させたのにも一役買ったに違いない。この三人はアーセナルの歴史に残るストライカーで、ベルカンプがこの三人全員とプレイしているのだ。彼の技術が素晴らしすぎたおかげで、パートナーも同じ水準に達するよう強いられ、また彼らが越えられない壁がある際には手を差し伸べた。
Embed from Getty Images近年のアーセナルの選手の最高の選手たちの多くは、最終的には移籍を望んだ。だがベルカンプは違った。彼は体が衰え、出場機会が減ってもクラブに忠誠を誓い続けた。最終的に、彼は10年以上アーセナルに在籍することとなり、エミレーツスタジアムでの初戦が彼の記念の引退試合となった。彼がアーセナルを新時代に導くのに果たした役割を象徴しているかのようだった。
新スタジアムにはアンリの銅像が立っており、そのうちにイアン・ライトもそこに加わるだろう。彼らのレジェンドとしてのスタートは部分的にはベルカンプのおかげでもある。
エミレーツにたつ彼自身の銅像が、高いボールをトラップしようと地面から浮かんでいる姿のはまさに彼にぴったりだと言える。彼は飛行機で飛ぶのは好まなかったが、ピッチ上では、誰よりも高く舞い上がることが出来た。
アーセナルはこのように数々の才能に溢れた選手を抱えられて本当に恵まれていた。クリエイター、得点者、天才だが少しずる賢い。彼がどういった選手を簡単に言葉で表すことは出来ない。何故なら、彼はそんなレベルをはるかに超えていたからだ。
ディスカッション
コメント一覧
ベルカンプの記事を公開いただき、ありがとうございます。
近年よい話題が少ない中、なぜ自分がガナーズに導かれたのかを思い出させてくれた素晴らしい内容でした。
いつもは見てるだけですが、あまりにも嬉しかったので、コメントさせていただきました。
コメント&お読みいただきありがとうございます!自分はベルカンプをリアルタイムで走らない世代なのですが、いろいろな記事を読めば読むほどものすごい選手だったのだろうなあというのが伝わってきます。